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無機塗料を検討している方が最初に知っておくべきことは、価格と耐用年数の関係ではありません。「無機塗料」には法的にも業界的にも統一された定義がなく、実際に売られているのは無機成分を配合した有機・無機ハイブリッド塗料である、という事実です。㎡単価はおおむね3,800〜6,000円で、耐用年数は15〜25年とされますが、この20年超という数字の多くは促進耐候性試験からの換算値です。この記事では、メーカーの公式情報と試験機メーカーの説明をもとに、無機塗料のデメリットと価格を、宣伝を抜きにして整理します。
無機塗料のデメリットは「硬さ」「定義のあいまいさ」「検証データの薄さ」の3つです
結論から書きます。無機塗料のデメリットは、価格が高いことだけではありません。整理すると次の3つに集約されます。
- 塗膜が硬く柔軟性に乏しい:下地の動きに追従しにくく、ひび割れが出やすい条件があります
- 「無機塗料」の定義が統一されていない:無機成分が何%入っていれば無機塗料と名乗れるかの基準がありません
- 20年以上の実地データがほとんど公開されていない:宣伝されている耐用年数は促進試験からの換算値が中心です
価格については、外壁の㎡単価でおおむね3,800〜6,000円が目安です。ただし出典によって数字が大きく割れます。同じ「無機塗料」という言葉が指す中身が統一されていないため、単価の幅もそのまま広がっているというのが実情です。まずはその割れ方から見ていきます。
無機塗料の価格は㎡3,500〜8,000円と出典で割れています
無機塗料の単価を複数の情報源で調べたところ、下限は3,500円、上限は8,000円まで開きました。当サイトでは中心的な目安として3,800〜6,000円/㎡を採用していますが、それより高い数字を示す情報源も実在します。
| 情報源 | 無機塗料の㎡単価 | 耐用年数の記載 |
|---|---|---|
| くらしのマーケットマガジン | 約3,500〜5,500円 | 約20〜25年 |
| やまもとくん(埼玉の塗装店) | 3,500〜6,000円 | 記載なし |
| リフォームの匠美 | 約3,800〜6,500円(外壁) | 15〜25年級 |
| ミヤケン | 5,000〜5,500円 | 20〜25年 |
| 外壁塗装の窓口 | 5,000〜8,000円 | 約15〜25年 |
2倍以上の開きがある理由は主に3つ考えられます。第一に、後述するとおり無機塗料の定義が統一されておらず、比較的安価な製品と高価な製品が同じ名前で流通していること。第二に、単価に下塗り材や中塗りを含めるかどうかが情報源ごとに異なること。第三に、屋根用と外壁用が混在していることです。リフォームの匠美は屋根の無機塗料について「平米単価は4,500〜7,500円前後」とし、勾配や高所作業の安全対策で外壁より上がりやすいと説明しています。
延床30坪の戸建て(塗装面積は約119㎡が一つの目安)で総額を見ると、無機塗料は90〜150万円という数字が複数の情報源で示されています。リショップナビは30坪の相場を無機で90〜150万円、シリコンで60〜100万円としており、リフォームの匠美も30坪の総額を90〜150万円としています。見積書のどこにどの費用が乗っているかは外壁塗装の費用内訳で分解していますので、単価だけで比べる前に確認してください。
「無機塗料」に法的・業界統一の定義はありません
ここが無機塗料を理解するうえで最も重要な部分です。結論を書くと、無機成分が何%以上含まれていれば「無機塗料」と呼べる、という公的な基準は確認できませんでした。そして市販されている無機塗料は、100%無機ではありません。
100%無機の塗膜は物理的に作れません
理由はメーカー自身が公表しています。日本ペイントホールディングスの技術解説は、無機成分について「石やガラスのように化学的に非常に安定で、その結合エネルギーは太陽光の紫外線エネルギーよりも強く、耐久性の源泉」と説明する一方、「無機成分は優れた耐久性を発揮する一方で、柔軟性に乏しく曲げに弱い」と明記しています。そのうえで「柔軟性をもつ特殊有機成分をハイブリッド化することにより、双方の長所を取り入れる」のが同社の技術だとしています。
つまり、無機成分だけで塗膜を作ると硬すぎて割れてしまうため、柔らかさを担保する有機樹脂を必ず混ぜる必要があるということです。これは特定メーカーの都合ではなく、塗膜という材料の性質上の制約です。
メーカー自身が「無機有機ハイブリッド塗料」と名乗っています
この点は製品名や製品資料からも確認できます。関西ペイントのアレスダイナミックmukiは、製品ページ上で自ら「無機有機ハイブリッド塗料」と表示しています。同社の製品資料でも、「無機の強靭さと有機の柔軟性、そしてフッソレジンの素材の保護機能を高効率で配合させることで優れた耐候性を発揮」すると説明されています。
エスケー化研のエスケープレミアム無機も、「ハイブリッド技術による無機系超耐候性樹脂」で、無機成分をナノレベルで複合化しつつ「有機樹脂の柔軟性も併せ持つ」設計だと説明しています。アステックペイントの製品群も「無機ハイブリッドシリーズ」という名称です。主要メーカーはいずれも、無機単体ではなくハイブリッドであることを隠していません。
問題は「無機成分が何%か」が表示されないことです
メーカーが正直に書いていても、購入する側には配合比が見えません。塗装業界関係者が運営するnote上の解説記事は、「日本塗装工業会をはじめとする公的機関において、無機成分が何パーセント含まれていれば『無機塗料』と呼べるかという基準は設けられていない」と指摘し、その結果「全体の数パーセント程度しか無機成分が含まれていないものであっても、メーカーの裁量で『無機塗料』として販売されているのが実情である」と書いています。
この指摘を裏づける公的な基準文書を探しましたが、無機塗料の配合比を定義したJIS規格や業界統一基準は見つかりませんでした。逆に言えば、「基準がない」という指摘を否定する材料も見つかりませんでした。したがって「無機塗料だから高耐久」ではなく「その製品が高耐久かどうか」を製品名で確認する必要がある、というのが現時点で言えることです。カタログの製品名とメーカー名が見積書に書かれていない場合、何を塗るのかは実質的に不明だと考えてください。
「耐用年数20〜25年」の多くは促進耐候性試験からの換算値です
結論を先に書きます。無機塗料の「20年」「25年」という数字は、屋外で20年放置した戸建てを検証して得られたものではなく、試験機の中で紫外線を強く当てる促進耐候性試験の結果を年数に読み替えたものが中心です。そして、この読み替えには試験機メーカー自身が注意を促しています。
キセノン5,000時間は屋外の何年分か
促進耐候性試験は、キセノンランプなどで紫外線・水・熱を人工的に与え、塗膜の光沢保持率がどこまで落ちるかを見る試験です。関西ペイントのアレスダイナミックMUKIの資料では、キセノン照射5,000時間でおよそ80%以上の光沢保持率を維持したとされています。KFケミカルのセミフロンスーパーシリーズについては、前掲のnote記事が10,000時間以上の照射で80%以上の光沢保持率と紹介しています。
では5,000時間は何年分でしょうか。試験機メーカーのスガ試験機は、紫外線(300〜400nm)の放射露光量のみから計算した場合、スーパーキセノン180W/㎡で「約472時間が1年間相当」という例を示しています。この数字を機械的に当てはめると次のようになります。
| 促進試験の照射時間 | 紫外線量だけで単純換算した年数 | 備考 |
|---|---|---|
| 2,000〜3,000時間 | 約4.2〜6.4年相当 | note記事が一般的なシリコン塗料の例として紹介 |
| 5,000時間 | 約10.6年相当 | 関西ペイント アレスダイナミックMUKIの試験時間 |
| 10,000時間 | 約21.2年相当 | note記事がセミフロンスーパー系の例として紹介 |
試験機メーカー自身が「一律換算はできない」と書いています
上の表を根拠に「だから20年もたない」と結論づけるのは早計です。スガ試験機は同じページで、「この対応時間は、物質の劣化に主として関与する紫外線(300〜400nm)の波長域だけを考慮したエネルギーのみによる比較です。実際には屋外暴露と促進試験の相関時間は、光以外の劣化要因(雨・温度・湿度・結露・ガスなど)の影響や、物質の組成、試験機の光源の分光組成、評価項目、屋外暴露試験結果のばらつき等により、一律に決めることはできません」と明記しています。
日本電計も同様に、促進倍率を「一律に屋外暴露試験の1年=促進耐候性試験の◯◯時間のように定義する事は原理的にできません」と説明し、促進試験の有効な使い方は「複数候補の相対比較に利用する使い方が一般的です」としています。
整理すると、促進試験の数字が言えるのは「同条件で比べたときシリコンより無機のほうが光沢保持率の落ちが遅い」という順位までで、「屋外で何年もつか」という絶対値ではないということです。カタログの5,000時間や10,000時間という数字は、他グレードとの優劣を示す材料としては有効ですが、年数への読み替えは各社の解釈に委ねられています。
屋外で20年経った戸建ての検証データは見つかりませんでした
屋外暴露試験そのものは行われています。宮古島には日本ウエザリングテストセンターの試験場があり、大手メーカーも独自の暴露試験場を持っていることがミヤケンの現地レポートなどで紹介されています。オンテックスも宮古島と北海道での暴露試験の実施を公表しています。
ただし今回調べた範囲では、戸建て住宅に塗った無機塗料が屋外で20年以上経過した後どうなっていたかを、第三者が検証して公開したデータは見つかりませんでした。公開されているのは試験片の暴露結果や促進試験のグラフが中心です。これは無機塗料を否定する材料ではありませんが、「15〜25年」という数字を他グレードと同じ確からしさで受け取るべきではない理由にはなります。当サイトが塗料の種類と耐用年数一覧で無機塗料について「実績データが少なく信頼度が低い」と注記しているのはこのためです。
なお日本ペイントは用語解説「期待耐用年数」で、期待耐用年数を「塗膜の汚れ・チョーキング(白亜化)・変退色・表層のひび割れが進行し、塗膜寿命により下地保護機能が期待できなくなると予想される目安時期」と定義したうえで、「期待耐用年数はあくまでも目安になります。内容を保証するものではありません」と明記しています。メーカー自身が保証ではないと言っている数字である点は押さえておいてください。
価格以外の実務的なデメリット5つ
結論として、無機塗料の弱点は「硬さ」から派生するものが中心です。順に整理します。
1. 下地が動く外壁ではひび割れが出やすい
前述のとおり日本ペイントホールディングスは無機成分を「柔軟性に乏しく曲げに弱い」としています。ハイブリッド化で柔軟性を補ってはいますが、一般にシリコンやウレタンより硬い塗膜になります。外壁塗装の窓口は、材料の硬さゆえに「塗膜にひび割れ(クラック)が発生しやすい」とし、築年数の古い建物や地震の多い地域では注意が必要としています。やまもとくんも「モルタル外壁に無機塗料を塗った状態でモルタル外壁が収縮すると、塗料の膜も一緒に動いてしまいひび割れしやすくなる」と説明しています。
ひび割れが心配な下地では、下塗りに微弾性フィラーを使う、あるいは弾性下地に対応した製品を選ぶといった対応がとられます。関西ペイントのアレスダイナミックmukiは特長として「弾性下地にも対応」を挙げていますが、これは裏を返せば、無機系の上塗りと弾性下地の組み合わせが従来は課題だったことを示しています。
2. 完全な艶消しがほぼ選べない
艶を消すには塗膜表面に微細な凹凸を作る艶消し剤を入れますが、これは塗膜の緻密さを損ないます。そのため高耐候の無機系では艶の選択肢が絞られます。実際、エスケープレミアム無機は「艶有り、半艶、3分艶」の3タイプ、アレスダイナミックmukiは「艶あり、7分艶、5分艶、3分艶」の4タイプで、いずれも完全な艶消し(つや消し)は用意されていません。ミヤケンも無機塗料のデメリットとして「完全にツヤを消すことができない」と挙げています。
落ち着いたマットな外観を強く希望する場合、無機塗料は選択肢から外れる可能性があります。艶の見え方は面積が大きいほど強調されるため、色見本の艶感で判断しないでください。
3. 施工の再現性が職人の技量に左右されやすい
高耐候の塗料ほど、希釈率・塗布量・乾燥時間(インターバル)の管理がシビアになります。外壁塗装の窓口は「職人の高い技術力が求められる」とし、施工不良は剥がれや不具合につながるとしています。やまもとくんも剥がれや膨れについて「施工不良が原因であることが多い」とし、「塗料をしっかりと乾燥させていなかったり、下塗りが十分でなかったりすると、塗料が密着しにくいため、剥がれやすくなってしまう」と説明しています。
日本ペイントの期待耐用年数の定義にも「標準的な環境、保管条件、塗装条件、使用量、希釈率、塗り重ね乾燥時間、混合比率、ポットライフ時間を想定したもの」という前提が書かれています。カタログどおりの性能は、カタログどおりの施工が前提だということです。
4. 次回の塗り替えで下地処理が重くなる可能性がある
これは調べても確定的なことが言いにくい論点です。硬く緻密な塗膜は塗料が食いつきにくいと説明する塗装店の記事は複数ありますが、メーカーの公式資料でそれを明記したものは見つけられませんでした。
ただし、関西ペイントのアレスダイナミックMUKIの製品資料には、旧塗膜がある場合の下地調整として「劣化した旧塗膜をディスクサンダーなどで除去」、劣化が著しいときは「サンダー・ワイヤーブラシ等でぜい弱な塗膜を除去し高圧水洗」といった記載があります。少なくとも、20年以上経った高耐候塗膜の上に次の塗料を載せるには、密着を確保するための下地処理(ケレン、専用プライマー)が必要になると考えておくのが安全です。ケレンの単価は一般に200〜500円/㎡ですが、範囲が広がれば次回の見積もりは上振れします。
5. 扱える業者・製品が相対的に限られる
無機塗料はメーカーの取り扱い代理店や、施工実績のある業者が限られることがあります。相見積もりを取ったときに、A社は無機を提案し、B社はフッ素までしか扱っていない、という状況は珍しくありません。この場合、単純な金額比較ができなくなります。外壁塗装の見積もり相場で触れているとおり、比較するときは「同じグレード・同じ製品名で見積もりを揃える」ことが前提になります。
【独自視点】塗膜だけ25年もたせても、建物側の周期が投資を制限します
ここが、この記事で最もお伝えしたい論点です。塗膜の寿命を延ばしても、シーリングや足場という「建物側の周期」は短くならないため、25年もつ塗膜の価値は理論値どおりには回収できません。
シーリングの打ち替えは15〜20年で来ます
窯業系サイディングの最大手であるニチハは、メンテナンスについて「特に負荷のかかる『外壁材本体どうしの継ぎ目』のシーリングにつきましては、15年から20年経過した時点での打ち替え工事をおすすめしています」と案内しています。つまりサイディング外壁の家では、塗膜が何年もとうと、15〜20年でシーリングのために足場を組む必要が出てきます。
足場を組むなら、そのついでに塗り替えるのが合理的です。足場は延床30坪クラスで足場面積166㎡・800〜1,200円/㎡としてくらしのマーケットマガジンは13.3〜19.9万円と試算しており、単独で発生させるには大きい金額です。シーリングの打ち替えは900〜1,500円/mが目安で、30坪の総延長は150〜200m程度。詳しくはコーキング打ち替えの費用で扱っています。
年あたりコストで見ると、グレード差はほとんど消えます
塗料の㎡単価を耐用年数で割った「1㎡・1年あたりのコスト」を計算すると、意外な結果になります。
| 塗料グレード | ㎡単価の目安 | 耐用年数の目安 | 1㎡・1年あたり |
|---|---|---|---|
| アクリル | 1,000〜1,800円 | 5〜8年 | 約125〜360円 |
| ウレタン | 1,600〜2,500円 | 7〜10年 | 約160〜360円 |
| シリコン | 2,000〜3,500円 | 10〜15年 | 約135〜350円 |
| ラジカル | 2,800〜3,500円 | 13〜15年 | 約185〜270円 |
| フッ素 | 3,000〜5,500円 | 15〜20年 | 約150〜365円 |
| 無機 | 3,800〜6,000円 | 15〜25年 | 約150〜400円 |
どのグレードも、年あたりコストはおおむね130〜400円の帯に収まります。しかも無機は年数が下限(15年)に振れた場合、年あたり400円で全グレード中いちばん高くなります。塗料代だけで見れば、高耐久塗料は「安くなる」わけではなく「同じくらいのコストで塗り替え回数が減る」という性質のものです。同じ論点はフッ素にも当てはまり、シリコン塗料とフッ素塗料の違いでも扱っています。
30年でシミュレーションすると差が縮みます
塗り替え回数が減ることの価値は、足場・洗浄・養生・シーリングといった付帯工事が回数分だけ節約できる点にあります。そこで、今回の塗り替えを1回目として30年後までにいくらかかるかを概算してみます。前提は延床30坪・塗装面積119㎡・足場面積166㎡、諸経費は別枠です。
| 想定シナリオ | 30年間の塗り替え回数 | 1回あたり概算総額 | 30年の概算総支出 |
|---|---|---|---|
| シリコンが10年で寿命(0・10・20年) | 3回 | 約60〜105万円 | 約180〜315万円 |
| シリコンが15年もつ(0・15年) | 2回 | 約60〜105万円 | 約120〜210万円 |
| フッ素が15年で寿命(0・15年) | 2回 | 約75〜130万円 | 約150〜260万円 |
| 無機が15年で寿命(0・15年) | 2回 | 約80〜135万円 | 約160〜270万円 |
| 無機が25年もつ(0・25年) | 2回 | 約80〜135万円 | 約160〜270万円 |
この表から読み取れることは3つです。第一に、30年というスパンでは、無機が15年でも25年でも塗り替え回数は同じ2回になり、総支出は変わりません。25年もった分の価値が30年時点では現金化されないのです。第二に、シリコンが上限どおり15年もった場合、シリコン2回のほうが無機2回より安く済みます。第三に、無機が明確に有利になるのは「シリコンが10〜12年で寿命を迎え、かつ無機が20年以上もつ」という条件が揃ったときだけです。
さらに、サイディング外壁ならシーリングの打ち替えが15〜20年で来ます。そのタイミングで足場を組むなら、塗膜が25年もつという性能の一部は最初から使い切れないことになります。この「建物側の律速」を踏まえると、無機塗料の投資対効果は塗膜の寿命ではなく、家の他の部位の周期と揃うかどうかで決まると言えます。塗り替え周期の考え方が変わる点はラジカル塗料のデメリットで扱っている中間グレードの位置づけとも関係します。
無機塗料が合理的な家と、契約前に確認したいこと
ここまでを踏まえると、無機塗料は「高いだけ」でも「最良」でもなく、条件が合う家では合理的な選択になります。判断の目安を整理します。
無機塗料が合理的になりやすい条件
- 今後30年以上、その家に住み続ける予定がはっきりしている
- 足場の設置費が高くつく家(3階建て、隣家との距離が近い、道路付けが悪い)で、塗り替え回数を減らす価値が大きい
- 下地が安定している(ひび割れの少ない金属サイディング、状態の良い窯業系サイディング)
- 艶のある外観を許容できる、または好んでいる
- 今回シーリングを全面打ち替えするので、次のシーリング更新まで15〜20年の余裕がある
- 年齢や体力の面で、塗装工事に立ち会う回数を減らしたい
無機塗料を選ぶ意味が薄い条件
- 10〜15年以内に売却・建て替え・大規模改修の可能性がある
- モルタル外壁でひび割れが出やすく、下地が動く傾向がある
- 完全な艶消しのマットな外観にしたい
- 外壁材自体の劣化が進んでおり、次回は張り替えやカバー工法を検討する可能性がある
- 予算の制約が強く、無機との差額分を下地補修やシーリングに回したほうが効果が高い
- 提案してきた業者に無機塗料の施工実績がない
特に4番目は見落とされがちです。塗装は外壁材を保護する工事であって、外壁材そのものを新しくする工事ではありません。外壁材が寿命に近いなら、高い塗料を載せても建材の寿命は延びません。予算配分としては、下地補修とシーリングを厚めにしてグレードを一段下げるほうが、結果的に長持ちすることもあります。
見積書で必ず確認したい5項目
無機塗料は「無機」という言葉だけが独り歩きしやすい分野です。契約前に次の5点を確認してください。
- メーカー名と製品名が明記されているか:「無機塗料」「高耐久無機」など総称だけの見積もりは、何を塗るか特定できません
- 下塗り材の製品名も書かれているか:上塗りが同じでも下塗りが合っていなければ密着不良のリスクが上がります
- 塗る回数(下塗り+中塗り+上塗り)と塗布量の記載:期待耐用年数は規定の使用量が前提です
- 耐用年数の根拠を口頭で確認する:「メーカーの期待耐用年数」なのか「保証年数」なのかは別物です
- 保証の対象と年数:塗膜保証の対象範囲(変退色、剥離、ひび割れのどこまでか)を書面で確認します
なお、高耐久塗料は訪問販売の営業トークにも使われやすい分野です。国民生活センターのPIO-NET集計によると、点検商法に関する相談は2023年度の12,550件から2025年度は19,696件へ増えています(2026年5月31日現在の集計で、最新年度は未確定です)。「今なら特別に無機塗料で」といった限定感のある提案には、その場で契約しない対応が有効です。
よくある質問
Q. 無機塗料は本当に25年もちますか?
断定できる材料はありません。メーカーが示す15〜25年という数字は促進耐候性試験をもとにした期待耐用年数であり、日本ペイントも「期待耐用年数はあくまでも目安になります。内容を保証するものではありません」と明記しています。今回調べた範囲では、戸建てに塗った無機塗料が屋外で20年以上経過した後を第三者が検証したデータは見つかりませんでした。立地(海沿い、日射の強い南西面)や施工品質で結果は変わるため、幅のある目安として受け取るのが妥当です。
Q. 無機塗料とフッ素塗料はどちらを選ぶべきですか?
耐用年数の目安はフッ素が15〜20年、無機が15〜25年で、単価はフッ素3,000〜5,500円/㎡、無機3,800〜6,000円/㎡が目安です。重なる部分が大きく、製品によって逆転もあり得ます。フッ素は市場での使用歴が長く実績データが厚い一方、無機は上限側の年数が長いという構図です。判断材料としては、年数の名目値ではなく「その製品の促進試験データ」「下地との相性」「艶の選択肢」を比べるほうが実務的です。詳しい比較はシリコン塗料とフッ素塗料の違いもあわせてご覧ください。
Q. 無機塗料なら汚れがつかないと言われましたが本当ですか?
「つかない」ではなく「つきにくい・落ちやすい」までが妥当な表現です。無機系は親水性が高く、雨で汚れが流れやすい(セルフクリーニング)とされる製品が多く、関西ペイントも特長として「超低汚染」「防カビ・防藻性」を挙げています。ただし北面や軒下など雨が当たらない部位では汚れが残ります。汚れがまったく付かないという説明は、効果を保証する表現なので注意してください。
Q. 「100%無機塗料」と言われた場合はどう考えればよいですか?
建築用の外壁塗料として、有機樹脂をまったく含まない塗膜は現実的ではありません。日本ペイントホールディングスも無機成分は「柔軟性に乏しく曲げに弱い」ため有機成分とハイブリッド化すると説明しており、関西ペイントやエスケー化研の無機系製品も自ら「無機有機ハイブリッド」「ハイブリッド技術による無機系超耐候性樹脂」と表示しています。「100%無機」という説明が出てきたら、製品名とメーカー名、そしてメーカーのカタログ表記を確認するのが確実です。
Q. 無機塗料の見積もりが相場より安いのですが大丈夫でしょうか?
無機成分の配合比に統一基準がないため、「無機塗料」という名称でも中身と価格帯は大きく異なります。単価が3,500円/㎡を下回るような提案では、規定より薄めて塗る(過希釈)、塗り回数を減らす、下塗りを省くといった調整が入っている可能性を確認したほうが安全です。確認方法は、見積書に製品名・希釈率・塗布量・塗り回数が書かれているかを見ることです。金額の妥当性の見方は外壁塗装の見積もり相場でも整理しています。
まとめ
無機塗料の㎡単価はおおむね3,800〜6,000円で、情報源によっては3,500〜8,000円まで開きます。耐用年数の目安は15〜25年ですが、これは促進耐候性試験からの換算が中心で、屋外で20年以上経った戸建ての検証データは公開されているものが見つかりませんでした。
最も押さえるべきは、「無機塗料」に法的・業界統一の定義がなく、実際に流通しているのは無機成分を配合した有機・無機ハイブリッド塗料であるという点です。100%無機では塗膜が硬すぎて割れるため、柔軟性を担保する有機樹脂が必ず入ります。メーカー自身がそれを公表しており、隠された事実ではありません。問題は配合比が表示されないことなので、判断は「無機かどうか」ではなく「どの製品か」で行ってください。
そしてもう一つ。塗膜が25年もっても、サイディングのシーリングは15〜20年で打ち替えが推奨され、そのために足場が必要になります。30年スパンで概算すると、無機が15年でも25年でも塗り替え回数は変わらず、総支出も動きません。無機塗料が明確に有利になるのは、足場コストが高い家、長く住み続ける予定がはっきりしている家、下地が安定している家です。逆に、10〜15年以内に売却や建て替えの可能性がある家、モルタルでひび割れが出やすい家、艶消しにしたい家では、差額を下地補修やシーリングに回すほうが効果的な場合があります。
高いから良い、安いから悪いという単純な話ではありません。塗料グレード全体の位置づけは塗料の種類と耐用年数一覧で、費用の組み立て方は外壁塗装の費用内訳で確認したうえで、ご自宅の条件に照らして判断してください。
見積もりを取るときに使えるサービス
ここから先は広告を含みます。自分で業者を探す時間が取れない場合は、一括見積もりサービスを使う方法もあります。ただしこれらのサービスは加盟店からの掲載料で運営されているため、紹介されるのは「その仕組みに参加している会社」に限られます。地元の優良な塗装店が含まれていないこともあるため、あくまで候補を集める手段の一つとして使ってください。この記事で挙げたチェック項目は、サービス経由で集めた見積書にもそのまま使えます。

