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「足場なしで外壁塗装や屋根修理はできますか」というご質問に、結論からお答えします。一定の条件では足場を使わない施工方法が存在しますが、その多くは「足場代が消える」話ではなく「別の安全設備と、法令上の義務が3つ増える話」に置き換わります。そして足場の設置は業者のもうけの都合ではなく、労働安全衛生規則が事業者に課した義務です。この記事では条文を現物で確認し、どこまでが本当で、どこからが営業トークなのかを切り分けます。
結論:足場なしの施工は「ある」が、足場代だけが消えることはほぼない
足場を使わない外壁・屋根の作業は、大きく3つに分かれます。このうち「足場代をまるごと節約できる」と言えるのは3番目だけで、1番目と2番目は別の費用と別の義務に置き換わります。
- 無足場工法(ブランコ工法・ロープ工法):ロープで身体を保持して作業する方法。法令上は「ロープ高所作業」に該当し、ライフラインの設置・作業計画の作成・特別教育など、足場工事にはない義務がセットで発生します
- 高所作業車・ゴンドラの使用:足場の代わりに機械を使う方法。足場代は消えますが、機械のリース代・オペレーター・道路使用許可などの費用が乗ります
- もともと高所作業にならない工事:地上から手の届く範囲の部分補修、はしご1本で終わる雨樋の清掃、ドローンや伸縮棒カメラによる点検など。ここは足場が不要です
つまり「足場なしでできます、だから安いです」という説明が成り立つのは、工事の中身が3番目に当たるときだけです。外壁一面を塗る、屋根全体を葺き替えるといった工事で足場代だけが消えるなら、消えた分の安全対策がどこへ行ったのかを確認する必要があります。足場そのものの単価や内訳を知りたい方は外壁塗装の足場代の相場をあわせてご覧ください。この記事では価格ではなく、法令と安全設備の側から説明します。
足場は業者の都合ではない。労働安全衛生規則が事業者に課した義務
足場が必要な根拠は「安全のため」という抽象論ではなく、条文に書かれています。厚生労働省が公開している労働安全衛生規則(以下、安衛則)には、次の規定が置かれていることを確認できました。
第518条:高さ2m以上なら「足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない」
安衛則第518条は、高さが2メートル以上の箇所で作業を行う場合において墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない、と定めています。そして作業床を設けることが困難なときは、防網を張り、労働者に要求性能墜落制止用器具(安全帯)を使用させる等の措置を講じなければならない、とされています(厚生労働省 労働安全衛生規則(抄))。
ここが決着点です。2階の外壁や屋根は、ほぼ例外なく「高さ2メートル以上」です。したがって事業者には、作業床を設けるか、それが困難なら代替措置を講じるかの、どちらかの義務があります。「何もしない」という選択肢は条文上ありません。足場代は、この義務を果たすための費用です。
第519条・第521条:端部の囲い・手すりと、安全帯の取付設備
同じ規則の第519条は、高さ2メートル以上の作業床の端や開口部等で墜落の危険がある箇所には、囲い、手すり、覆い等を設けなければならないと定めています。設置が著しく困難なとき、または作業の必要上臨時に取り外すときは、防網を張り墜落制止用器具を使用させる等の措置が求められます。第521条は、墜落制止用器具を使わせるときは、それを安全に取り付けるための設備等を設け、随時点検しなければならないとしています(同上)。
つまり「安全帯を付けているから足場はいらない」という説明は、条文の順番を飛ばしています。安全帯を使うなら、それを掛ける設備が別に必要で、その設備も点検対象です。
第563条:作業床の寸法まで数値で決まっている
足場の作業床は「板が渡してあればよい」ものではありません。滋賀労働局が公開している足場の規定の資料から、第563条の数値基準を確認できました。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 作業床の幅 | 40cm以上 |
| 床材間のすき間 | 3cm以下 |
| 床材と建地のすき間 | 12cm未満 |
| 手すりの高さ | 85cm以上 |
| 中さんの高さ | 35〜50cm |
| 幅木の高さ | 10cm以上 |
| わく組足場の墜落防止設備 | 交さ筋かい+高さ15〜40cmの桟、または高さ15cm以上の幅木 |
| わく組足場以外 | 手すり等+中さん等 |
見積書の「足場 ○○円/㎡」が、この寸法を満たす組み方を前提にしているかどうかは、図面や仮設計画で確認できます。手すりも中さんもない単管2本の仮設は、同じ「足場」という言葉で呼ばれていても中身が違います。
第565条・第36条・第567条:資格者と点検の義務
同じ資料から、足場には「人」と「点検」の義務もかかっていることを確認できました。
- 第565条:つり足場、張出し足場、高さ5m以上の足場の組立て等の作業では、足場の組立て等作業主任者技能講習を修了した者から作業主任者を選任する義務
- 第566条:作業主任者の職務として、材料の欠点の点検、器具・工具・保護帽の機能確認、作業方法と労働者の配置の決定、作業の監視、墜落制止用器具の使用状況の監視
- 第36条第39号:高さ2m以上の足場の組立て・解体・変更の作業に従事する労働者には特別教育
- 第567条・第568条:作業開始前、悪天候や中震以上の地震の後、組立て・一部解体・変更の後の点検。床材の損傷、緊結部の緩み、墜落防止設備の取り外しや脱落、脚部の沈下・滑動などを確認
一般的な2階建て住宅の外壁塗装では、建物の高さから足場も5m以上になることが多く、第565条の作業主任者の対象に入ってきます。足場代の中には、この資格者の人件費も含まれていると考えるのが自然です。
2023年・2024年に足場の規定が強化されている
「昔はもっと簡単な足場でよかった」という説明を受けることがありますが、規制はこの数年で逆方向に動いています。厚生労働省の資料と大分労働局の資料で、同じ内容を確認できました。
| 改正内容 | 条番号 | 施行日 | 要点 |
|---|---|---|---|
| 足場の点検時における点検者の指名 | 安衛則第567条・第568条・第655条 | 令和5年10月1日(2023年) | 事業者または注文者が点検を行う際、点検者を指名しなければならない |
| 組立て等の後の点検者の氏名の記録・保存 | 安衛則第567条・第655条 | 令和5年10月1日(2023年) | 点検後、指名した点検者の氏名を記録し保存する |
| 一側足場の使用範囲の明確化 | 安衛則第561条の2(新設) | 令和6年4月1日(2024年) | 幅1m以上の箇所では原則として本足場を使用。一側足場は幅1m未満の箇所に限られる |
2024年4月からの第561条の2は、住宅の外壁塗装に直接関わります。建物と隣地の間に1m以上の幅があるなら、原則は片側だけで支える一側足場ではなく、2列の建地で支える本足場です。ただし、つり足場の場合や、障害物の存在その他の場所の状況により本足場の使用が困難なときは例外が認められています(出典同上)。敷地が狭い住宅で一側足場が使われること自体は、この例外に当たる可能性があります。
墜落・転落は、いまも最も多い死亡災害の型
規制が強化される背景は統計に出ています。厚生労働省「令和6年における労働災害発生状況(確定値)」では、全産業の死亡者数746人のうち、事故の型別で「墜落・転落」が188人。休業4日以上の死傷者数は全産業135,718人のうち墜落・転落が20,699人でした。業種別では建設業の死亡者数が232人、死傷者数が13,849人です(厚生労働省 令和6年における労働災害発生状況(確定値))。
足場代は、この数字を減らすための費用です。見積書の中で最も削りたくなる項目が、統計上は最も削ってはいけない項目だ、という構造になっています。
「足場なしで安くできます」と言う側が、リスクを負っている側である
ここが、この記事で最もお伝えしたい点です。足場や安全設備を省くことで生まれるリスクは、提案した事業者の側に偏って発生します。施主が得をする構図にはなっていません。
労働安全衛生法と安衛則は、労働者を使用する事業者に対する規制です。作業床や代替措置を講じないまま労働者に高所作業をさせれば、その義務違反を問われるのは事業者です。労働基準監督署による是正の指導や、重大な場合の司法処分の対象になりうるのも事業者です。一方で、発注した施主が法令違反の責任を負うかどうかは、契約形態や指示の内容によって異なり、一般論として断定できる話ではありません。この記事は「施主が罰せられる」と述べるものではありません。
では施主側は無関係かというと、そうではありません。負うものの性質が違います。
| 立場 | 安全設備を省いたときに負うもの |
|---|---|
| 施工する事業者 | 安衛法・安衛則上の義務違反を問われるリスク/監督署の指導・処分/労災が起きた場合の対応と賠償/作業中止による工期の破綻 |
| 発注した施主 | 作業が途中で止まるリスク/届かない箇所が塗り残し・補修漏れになるリスク/再施工や追加費用/自宅の敷地内で事故が起きた場合の精神的・実務的負担/近隣への塗料飛散 |
施主にとって現実的に困るのは、罰則ではなく「仕上がり」です。足場がないと、作業者は片手ではしごや身体を支えながら塗ることになります。ローラーを一定の圧で動かせず、既定の塗布量を確保できなければ、膜厚が不足します。膜厚が足りない塗膜は早期に劣化します。膜厚が足りなければ、塗料本来の耐用年数を前提にできなくなります。
「足場代を浮かせたい」という動機そのものは正当です。ただし浮かせる先は安全設備ではありません。塗料のグレード選択、時期の調整、相見積りの取り方といった正攻法は外壁塗装を安くする方法にまとめています。
無足場工法は「できる」。ただし法令上の義務が3つ増える
結論を先に述べます。ブランコ工法・ロープ工法と呼ばれる無足場工法は、違法な工法ではありません。しかし安衛則上は「ロープ高所作業」に分類され、足場工事には存在しない義務が追加で発生します。「足場がいらない=手続きが軽い」ではなく、「足場がいらない=別の手続きが要る」が正確な理解です。
ロープ高所作業の定義
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」では、ロープ高所作業は「高さが2メートル以上の箇所であって作業床を設けることが困難なところにおいて、いわゆるブランコなどの昇降器具を用いて、労働者が当該器具により身体を保持しつつ行う作業」と説明されています。勾配が40度未満の斜面での作業は除かれます。対象作業の例として、ビルメンテナンス業務、法面保護工事、橋梁・ダム・風力発電設備の調査点検が挙げられています(厚生労働省 職場のあんぜんサイト「ロープ高所作業」)。
注意点は「作業床を設けることが困難なところ」という前段です。足場が組める敷地の戸建て住宅で、わざわざロープ作業を選ぶ理由は、法令の側からは出てきません。無足場工法が本来の力を発揮するのは、隣地との距離がなく足場が物理的に組めない、道路使用の都合で足場を出せない、といった現場です。
条文で確認できたロープ高所作業の義務
平成28年1月1日施行の改正で新設された規定を、新潟労働局の条文解説と厚生労働省のリーフレットで確認しました。
| 条番号 | 見出し | 要点 |
|---|---|---|
| 第539条の2 | ライフラインの設置 | 身体を保持するメインロープとは別に、墜落制止用器具を取り付けるためのライフラインを設ける。両者は異なる堅固な支持物に確実に緊結する |
| 第539条の3 | メインロープ等の強度等 | 所定の引張荷重に耐える強度、十分な長さ、鋭い角などによる切断防止措置 |
| 第539条の4 | 調査及び記録 | 作業前に作業場所・支持物・通路の状況を調査し記録する |
| 第539条の5 | 作業計画 | 作業方法・順序、従事労働者数、支持物の位置、ロープの種類と強度、長さ、切断防止措置、応急措置を定め関係労働者に周知する |
| 第539条の6 | 作業指揮者 | 作業指揮者を定め、計画に基づく指揮、器具の点検、墜落制止用器具と保護帽の使用状況の監視を行わせる |
| 第539条の7 | 墜落制止用器具(安全帯)の使用 | 労働者に墜落制止用器具をライフラインに取り付けて使用させる |
| 第539条の8 | 保護帽の着用 | 物体の落下による危険があるときは保護帽を着用させる |
| 第539条の9 | 作業開始前点検 | その日の作業開始前に、メインロープ等の状態を点検する |
さらに特別教育が義務づけられています。学科教育は、ロープ高所作業に関する知識1時間、メインロープ等に関する知識1時間、労働災害の防止に関する知識1時間、関係法令1時間の計4時間。実技教育は、作業方法と墜落制止用器具・保護帽の取扱い2時間、メインロープ等の点検1時間の計3時間です(出典:職場のあんぜんサイト、同上)。厚生労働省のリーフレットでは、一般規定の施行が平成28年1月1日、特別教育の施行が平成28年7月1日と示されています。
足場あり/無足場工法で法令上必要になる措置の比較
同じ外壁を塗るとき、どちらの方法でも義務はなくなりません。中身が入れ替わるだけです。
| 法令上の措置 | 足場を組む場合 | 無足場工法(ロープ高所作業) |
|---|---|---|
| 作業床の設置 | 必要(安衛則第518条・第563条。幅40cm以上などの寸法基準あり) | 作業床を設けることが困難な場所であることが前提。代替措置が必要(第518条) |
| 端部の囲い・手すり等 | 必要(第519条。手すり85cm以上・中さん35〜50cm等) | 作業床がないため該当せず。ロープ側の規定に置き換わる |
| 本足場/一側足場の選択 | 幅1m以上の箇所は原則本足場(第561条の2。2024年4月1日施行) | 該当しない |
| ライフラインの設置 | 規定上は求められない(墜落制止用器具の取付設備は第521条) | 必要(第539条の2。メインロープとは別系統・別支持物) |
| 事前の調査と記録 | 足場の点検として規定(第567条・第568条) | 必要(第539条の4。作業前の調査と記録) |
| 作業計画の作成・周知 | 規則上の「作業計画」の明文は確認できず | 必要(第539条の5。方法・順序・人数・ロープ仕様等を記載) |
| 指揮・監督する者 | 足場の組立て等作業主任者(第565条。つり足場・張出し足場・高さ5m以上) | 作業指揮者(第539条の6) |
| 特別教育 | 高さ2m以上の足場の組立て等の業務(第36条第39号) | ロープ高所作業の業務。学科4時間+実技3時間 |
| 作業開始前の点検 | 必要(第567条)。2023年10月1日から点検者の指名と氏名の記録・保存 | 必要(第539条の9。メインロープ等をその日の作業開始前に点検) |
| 保護帽 | 作業主任者が機能を点検(第566条) | 落下の危険があるとき着用(第539条の8) |
表の「必要」が3か所、無足場工法の側に増えているのが見えます。ライフラインの設置、作業計画の作成、特別教育です。これが「できるが、法令上の義務が3つ増える」の中身です。
施主が無足場工法を提案されたときに確認する3項目
専門知識は不要です。上の表から導かれる3つを聞くだけで、提案の中身が確認できます。
- 「ロープ高所作業の特別教育を修了した方が作業されますか」——学科4時間・実技3時間の教育が義務です。修了していれば修了証があります
- 「作業計画書を見せていただけますか」——第539条の5で作成と関係労働者への周知が義務です。施主への開示義務が条文にあるわけではありませんが、作っていれば見せられます
- 「メインロープとは別に、ライフラインを張りますか。支持物は別にしますか」——第539条の2は、両者を異なる堅固な支持物に緊結することを求めています。ロープ1本で作業する提案なら、その理由を確認してください
加えて、戸建てで足場が組める敷地なのに無足場工法を勧められた場合は、「なぜこの現場で作業床を設けるのが困難なのか」を聞いてください。合理的な説明(隣地境界までの離隔がない、道路使用許可が取れない、など)があるなら筋が通ります。説明が「安いから」だけなら、判断材料が足りません。業者側の説明の見極め方は悪徳業者の見分け方も参考になります。
屋根修理で足場なしが特に危ない理由と、勾配で費用が上がる「安全設備側」の理由
屋根は外壁より条件が厳しくなります。理由は、墜落だけでなく「踏み抜き」と「滑落」という別の危険が加わるからです。
スレート屋根には、歩み板30cm以上という条文がある
安衛則第524条は、スレートや木毛板等の材料でふかれた屋根の上で作業を行う場合において、踏み抜きにより労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、幅が30センチメートル以上の歩み板を設け、防網を張る等の措置を講じなければならないと定めています(神奈川労働局「スレート屋根の踏み抜き災害をなくしましょう」)。経年劣化で強度が落ちたスレートは、人が乗ると割れます。
つまり屋根の上での作業は、足場とは別に「屋根の上の安全設備」が条文で要求される世界です。見積書に「屋根足場」「歩み板」「親綱」といった項目があるのは、ここに対応しています。築年数が経ったスレート屋根では、この踏み抜き対策が見積書に現れているかを確認してください。
勾配6寸(6/10)以上は、屋根面を作業床として使えない
厚生労働省の委託事業として建設業労働災害防止協会が作成した「足場の設置が困難な屋根上作業 墜落防止のための安全設備設置の作業標準マニュアル」では、勾配6/10以上の屋根は屋根作業床として適切でなく、屋根用足場等の設置が推奨されています。同マニュアルは、安衛則第518条(作業床の設置と困難時の代替措置)、第519条、第521条、第524条、第526条(高さまたは深さが1.5mを超える箇所での昇降設備)を根拠条文として挙げ、垂直親綱・水平親綱、安全ブロック、移動はしごや仮設昇降用足場といった具体的な設備を示しています(建設業労働災害防止協会/厚生労働省委託事業「墜落防止のための安全設備設置の作業標準マニュアル」)。
ここが、急勾配の屋根で費用が上がる理由のうち、あまり説明されない側面です。急勾配で高くなるのは「面積が増えるから」だけではありません。屋根面を作業床として使えなくなるため、屋根足場や歩み板、親綱といった安全設備を別に組む必要が生じ、その分の仮設費が乗ります。
面積が増える側の計算については、勾配係数(3寸=1.044/4寸=1.077/5寸=1.118)を使った考え方を外壁・屋根の塗装面積の計算方法で扱っていますので、そちらをご覧ください。なお、3寸勾配の係数を1.031とする早見表が流通していますが、1.031は2.5寸の値です。この記事では計算は深追いせず、安全設備の側に話を絞ります。
「屋根だけだから足場はいらない」が成り立ちにくい理由
屋根工事の見積りで「外壁は塗らないので足場は不要です」と言われることがあります。しかし屋根に上がるには、まず軒の高さまで安全に昇る設備が必要です。第526条は高さまたは深さが1.5mを超える箇所には安全に昇降するための設備を設けることを求めています(出典:上記マニュアル)。はしご1本で材料を抱えて昇る前提の見積りは、この部分が抜け落ちている可能性があります。
一方で、屋根に人が上がらない作業であれば話は変わります。点検目的ならドローンや伸縮棒カメラで撮影する方法があり、この場合は足場も昇降設備も不要です。点検と工事は切り分けて考えてください。ドローンを使う点検の実際についてはドローンによる屋根点検で解説しています。
「足場代を無料にします」営業の2つの正体
結論から言えば、足場代が本当にゼロになることはありません。足場の資材・運搬・組立解体・資格者の人件費が実在するからです。「無料」と言われたとき、実際に起きているのは次の2つのどちらかです。
正体1:他の項目に振り替えられている
足場の行が0円になっても、塗料の㎡単価、下地補修の数量、諸経費が上がっていれば総額は変わりません。確認方法は単純で、総額を見るのをやめて、㎡単価と数量を見ることです。
- 足場の面積(㎡)が書かれているか。「一式」だけになっていないか
- 塗装面積(㎡)が書かれているか。その数値が自宅の規模と整合するか
- 飛散防止ネット、高圧洗浄、養生、ケレンがそれぞれ別行で立っているか
- 「足場無料」の分だけ、他社と比べて塗料単価が高くなっていないか
住宅リフォーム紛争処理支援センター(住まいるダイヤル)の見積書セルフチェックでも、複数の事業者から見積りを取ること、数量が正確に積算されているかを確認すること、工事範囲を契約前に再確認することが挙げられています(住宅リフォーム紛争処理支援センター リフォームの基礎知識)。同センターの電話相談は10:00〜17:00(土日祝・年末年始を除く)に受け付けていると記載されています。
正体2:安全設備そのものが省かれている
こちらが問題です。足場は組むが、手すりや中さんを省く。飛散防止ネットを張らない。屋根足場を組まない。幅1m以上の離隔があるのに一側足場で済ませる。いずれも金額は下がりますが、下がった理由は条文が求める措置の欠落です。
見た目で判断できる項目もあります。足場の外側に飛散防止ネット(メッシュシート)が張られているか、各段に手すりと中さんがあるか、足場板にすき間が開いていないか。第563条の基準は上の表に挙げたとおりです。着工後に気になった場合は、写真を撮って記録しておくと、後で話し合うときの材料になります。
「無料」から入る訪問営業には相談が集まっている
国民生活センターのPIO-NETデータでは、「点検商法」に関する相談が2023年度12,550件、2024年度19,249件、2025年度19,696件と推移しています。訪問販売によるリフォーム工事の相談は2023年度11,879件、2024年度9,839件、2025年度5,544件で減少傾向です。いずれも2026年5月31日現在の集計で、消費生活センター等からの経由相談は含まれていないと注記されています。同センターは「工事をしないと危険」とせかす勧誘や、無料点検から始まる営業に注意し、その場で契約せずよく検討するよう呼びかけています(国民生活センター 点検商法・訪問販売リフォーム)。
「足場代無料」「今日契約なら足場サービス」は、この文脈に近い勧誘です。足場が法令上の義務を果たすための設備であることを知っていれば、無料化できる性質のものではないと判断できます。
足場なしでも問題ない工事と、足場が必要になる工事の線引き
すべての作業に足場が必要なわけではありません。判断の軸は「高さ2メートル以上の箇所で、墜落の危険がある作業をするか」です。
| 作業の内容 | 足場の必要性の目安 | 根拠・理由 |
|---|---|---|
| ドローン・伸縮棒カメラによる屋根や外壁の点検 | 不要 | 人が高所に昇らないため、高所作業に当たらない |
| 1階の掃き出し窓まわりなど、地上から手の届く範囲の部分補修 | 不要なことが多い | 高さ2m未満であれば第518条の対象外 |
| はしごでの雨樋の落ち葉除去など短時間の軽作業 | 個別判断 | 高さと墜落の危険の有無による。1.5m超の昇降には昇降設備の規定(第526条) |
| 2階外壁の部分的なシーリング打ち替えやひび割れ補修 | 原則必要 | 高さ2m以上。作業床か代替措置が必要(第518条) |
| 外壁塗装(全面) | 必要 | 高さ2m以上の箇所で継続的に作業するため |
| 屋根塗装・屋根葺き替え・カバー工法 | 必要 | 第518条に加え、踏み抜き(第524条)、昇降設備(第526条)、勾配6/10以上では屋根用足場 |
| 隣地との離隔がなく足場が組めない現場での外壁作業 | 無足場工法が選択肢 | 「作業床を設けることが困難」な場合に当たりうる。ロープ高所作業の義務が発生 |
この表は目安です。同じ「2階のひび割れ補修」でも、ベランダから手が届くのか、宙に身を乗り出すのかで条件が変わります。現場を見た事業者が「どの方法で墜落を防ぐのか」を説明できるかどうかが、実質的な判断材料になります。
一人親方・個人事業主が単独で作業する場合の適用関係
ここは断定を避ける必要がある領域です。労働安全衛生法は、労働者を使用する事業者に対する規制です。したがって、労働者を雇っていない一人親方が単独で作業する場合、同じ条文がそのままの形でかかるとは言えません。「足場なしは違法」という一般化はできません。
この分野では近年、保護の範囲を広げる動きがありました。建設アスベスト訴訟の最高裁判決を踏まえ、労働安全衛生法第22条は労働者だけでなく同じ場所で働く労働者でない者も保護する趣旨であると判断されたことを受け、令和5年4月1日施行の省令改正で、作業を請け負わせる事業者が一人親方等に対して一定の措置を講じる義務が設けられました。ただし厚生労働省の資料で確認した限り、この改正の中心は有害物による健康障害の防止(保護具使用の必要性の周知、作業方法の遵守の周知など)であり、墜落防止や足場に関する具体的な記述は、確認した資料の中には見当たりませんでした(厚生労働省 一人親方等に対する安全衛生対策に関する資料/厚生労働省 一人親方等の安全衛生対策について)。
したがって、一人親方が自身の判断で足場を使わずに作業する場合の法令の適用関係は、就労形態(誰に雇われているのか、元請との関係、現場に他の労働者がいるか)によって変わります。個別の適用関係は就労形態によるため、気になる場合は所轄の労働基準監督署に確認してください。全国の所在地は厚生労働省の全国労働基準監督署の所在案内で確認できます(利用時間は平日8:30〜17:15と記載)。
施主の立場で押さえておきたいのは、法令の適用がどうであれ、自宅の敷地内で事故が起きれば施主も当事者になるという点です。一人親方に依頼する場合の確認事項は一人親方に外壁塗装を頼む場合の注意点にまとめています。
よくある質問
Q. 足場なしで外壁塗装をお願いしたら、施主が罰せられますか
施主が罰せられるかどうかは、この記事では断定しません。労働安全衛生法・労働安全衛生規則は、労働者を使用する事業者に対して作業床の設置や代替措置を義務づけています(安衛則第518条・第519条)。発注した施主の責任は、契約形態や指示の内容によって異なり、一般論として言える話ではありません。実際に施主が負いやすいのは、罰則ではなく、作業の中断、塗り残し、再施工、近隣への飛散といった実務上の不利益です。
Q. 無足場工法(ブランコ工法)は違法ですか
違法ではありません。安衛則では「ロープ高所作業」として正面から規定されており、平成28年1月1日施行の規定により、ライフラインの設置(第539条の2)、メインロープ等の強度(第539条の3)、事前の調査と記録(第539条の4)、作業計画(第539条の5)、作業指揮者(第539条の6)、墜落制止用器具と保護帽(第539条の7・第539条の8)、作業開始前点検(第539条の9)が義務づけられています。加えて学科4時間・実技3時間の特別教育が必要です。要するに「できるが、守るべきことが増える」工法です。
Q. 足場なら安い「一側足場」にすれば費用が下がりますか
2024年4月1日に施行された安衛則第561条の2により、幅が1メートル以上の箇所で足場を使用するときは原則として本足場を使用することとされました。一側足場は幅1メートル未満の箇所に限られます。ただし、つり足場の場合や、障害物の存在その他の場所の状況により本足場の使用が困難なときは例外が認められています。したがって「安いから一側足場」という選び方はできません。敷地の状況で決まる項目です。
Q. 「足場代無料」と言われました。本当に無料なのでしょうか
足場の資材費・運搬費・組立解体の人件費・資格者の人件費は実在するため、原価がゼロになることはありません。総額ではなく、足場の面積(㎡)と単価、塗装面積(㎡)と塗料単価、飛散防止ネットや高圧洗浄などの各項目が別行で立っているかを確認してください。住まいるダイヤルの見積書セルフチェックでも、数量が正確に積算されているかの確認が挙げられています。なお、国民生活センターには「無料点検」から始まる訪問営業に関する相談が多数寄せられています。
Q. 屋根の点検だけなら足場は不要ですか
人が屋根に上がらない方法、たとえばドローンや伸縮棒カメラによる撮影であれば、高所作業に当たらないため足場も昇降設備も不要です。一方で、人が屋根に上がって確認する場合は、高さ2メートル以上の箇所での作業となり、作業床または代替措置の問題が生じます。スレート屋根では踏み抜きの危険があり、安衛則第524条が幅30センチメートル以上の歩み板の設置などを求めています。点検と工事を切り分け、「上がらずに見る方法があるか」を先に確認するのが現実的です。
まとめ
足場なしの外壁塗装・屋根修理について、条文で確認できた範囲を整理します。
- 安衛則第518条は、高さ2メートル以上で墜落の危険があるとき、足場を組み立てる等の方法により作業床を設けることを事業者に義務づけています。困難なときは防網や墜落制止用器具による代替措置が必要で、「何もしない」は条文上の選択肢ではありません
- 作業床の幅40cm以上、手すり85cm以上、中さん35〜50cmといった寸法まで第563条で決まっています。足場は「あるかないか」ではなく「基準を満たしているか」で見る設備です
- 規制は強化方向です。2023年10月1日から点検者の指名と氏名の記録・保存、2024年4月1日から幅1m以上の箇所は原則本足場(第561条の2)
- 無足場工法は違法ではありませんが、ロープ高所作業としてライフラインの設置・作業計画の作成・特別教育など、足場工事にはない義務が追加されます。確認するのはこの3点です
- 急勾配の屋根で費用が上がる理由には、面積の増加だけでなく、勾配6/10以上では屋根面を作業床として使えず屋根用足場等が必要になるという安全設備側の理由があります
- 「足場代無料」は、他項目への振替か、安全設備の省略のいずれかである可能性があります。総額ではなく㎡数と単価を見てください
- 一人親方が単独で作業する場合の適用関係は就労形態によって異なります。「足場なしは違法」と単純には言えません。個別の判断は所轄の労働基準監督署に確認してください
足場代は見積書の中で大きな金額を占めるため、削りたくなる気持ちは自然なものです。ただし、その費用の根拠が条文にあると分かれば、交渉する相手は足場ではなく別の項目だと判断できます。業者に「足場を外したい」と伝えるより、「足場の面積と単価の根拠を見せてください」と伝えるほうが、話が前に進みます。

