外壁塗装の膜厚不足を見抜く方法|膜厚計で測れない理由と缶数照合

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外壁塗装で「膜厚(まくあつ)が足りていないのではないか」と疑ったとき、多くの情報サイトは「膜厚計で測ってもらいましょう」と書いています。しかし窯業系サイディングやモルタルの外壁では、硬化した塗膜の厚みを施主が非破壊で測って確かめることは、現在広く流通している膜厚計の測定原理からいって現実的ではありません。測定機器のメーカー資料を読むかぎり、一般的な膜厚計は金属素地の上の被膜を測る道具です。ですから施主にできるのは「測って見抜く」ことではなく、使った塗料の量を書面と空缶で照合すること、そして着工前に照合できる状態を約束させることです。この記事は、その線引きを測定原理と公的仕様書から順に説明します。

目次

結論:膜厚不足は「測って見抜く」ものではなく「量で疑う」もの

先に結論を3つ示します。順番が大事です。

  • 外壁本体(サイディング・モルタル)の硬化後の塗膜は、施主が非破壊で膜厚を測るのが難しい。電磁誘導式・渦電流式の膜厚計はどちらも金属素地を前提にした原理だからです。
  • 一方で鉄部・アルミ部なら測れる。雨戸、面格子、鉄骨階段、手すり、庇の鋼板といった金属部分は、膜厚計の本来の対象です。「膜厚計で測定します」という業者の説明は、この範囲なら筋が通ります。
  • 外壁本体について施主が事後に検証できるのは、使った塗料の量だけ。「塗装面積 × メーカーが示す所要量」で出る必要量と、現場に残った空缶の実数を突き合わせる方法です。ただしこれは「疑いを持つ」ための道具で、「膜厚不足を立証する」ための道具にはなりません。

そして、残念ながら事後の追及は簡単ではありません。国土交通大臣指定の住宅リフォーム紛争処理支援センター(住まいるダイヤル)が公開している相談事例では、外壁塗装のムラを訴える相談に対し、「塗装のムラが瑕疵とされるかどうかは、かなり微妙な判断となる事柄」と回答されています(住まいるダイヤル 相談事例)。目に見えるムラでさえこの評価です。目に見えない膜厚の不足を、工事が終わってから覆すのは、さらに難しいと考えておくのが現実的です。

だからこの記事は、途中から「事後の見抜き方」ではなく「着工前にやっておくこと」に軸を移します。そちらのほうが、はるかに実効性があるからです。

膜厚計の測定原理と、測れる素地の前提

結論から書きます。一般に流通している膜厚計は「金属の上に乗った非金属の膜」を測る機械です。素地が金属でなければ、原理そのものが成り立ちません。

測定機器メーカーのケツト科学研究所が公開している膜厚計カタログには、2つの方式の原理がこう書かれています。電磁誘導式は「交流電磁石を鉄(磁性金属)に接近させると、接近距離によって、コイルを貫く磁束数が変化」することを利用する方式。渦電流式は「一定の高周波電流を流した誘導コイルを金属に近づけると、金属表面上に渦電流が生じ」ることを利用する方式です(ケツト科学研究所 塗装関連機器カタログ)。

同社の膜厚計シリーズのカタログでは、測定できる素地と被膜の組み合わせが機種ごとに明示されています(ケツト科学研究所 膜厚計L-200Jシリーズ)。公的機関の機器紹介でも、電磁式・渦電流式膜厚計の用途は「鉄鋼上の溶融亜鉛めっきなどの膜厚測定」とされ、測定範囲は電磁式0〜1,500µm、渦電流式0〜800µmと記載されています(埼玉県産業技術総合センター)。

方式素地(下地)被膜(測る層)測定範囲住宅の外壁本体に使えるか
電磁誘導式磁性金属(鉄・鋼)非磁性被膜(塗装・めっき・プラスチックなど)0〜1,500µm使えない(素地が金属でない)
渦電流式非磁性金属(アルミ・銅・真ちゅう)絶縁被膜(塗装・アルマイトなど)0〜800µm使えない(素地が金属でない)
デュアル(両対応)磁性金属+非磁性金属上記の組み合わせ方式ごとに上記と同じ使えない
光熱放射法(非接触)金属、紙、ゴム、セラミック、ガラス、プラスチック、木材塗膜機種仕様による窯業系サイディング・モルタルは適用素地として挙げられていない
超音波式(セメント系素地向け)コンクリート、モルタル、ブロック、れんが、石膏ボードなど塗膜(エポキシ系で150µm〜10mm)C1プローブ0.15〜2.5mm/C2プローブ0.75〜10.0mm原理上は対象だが、下限が150µmある
出典:ケツト科学研究所カタログ、埼玉県産業技術総合センター、エルコメーター製品情報をもとに編集部で整理

「非破壊では絶対に測れない」は言い過ぎです

ここは正確に書きます。セメント系の素地に塗られた塗膜を非破壊で測る機器は、実際に存在します。超音波を使う方式で、コンクリート用膜厚計として市販されています。公開されている仕様では、測定範囲はC1プローブが0.15mm〜2.5mm、C2プローブが0.75mm〜10.0mm(エルコメーター コンクリート用膜厚計A500)。業界誌の製品紹介では、対象素地として「concrete and other cementitious substrates」に加え「plasterboard, drywall, concrete block, mortar and brick」が挙げられ、エポキシ塗膜で150µm〜10mmという範囲が示されています(Polymers Paint Colour Journal)。

つまり問題は「原理的に不可能」ではなく、下限が150µm(0.15mm)にあることです。住宅の塗り替えで上塗りに使う塗料の膜厚は、この下限に届かない桁である可能性が高いと考えられます。あわせて、塗り替えでは旧塗膜がすでに下に積み重なっています。超音波式で測れるのは「素地の上に乗っている塗膜の合計」であり、今回の職人が塗った新しい塗膜だけを切り出して測ることにはならないという問題も残ります。

なお、膜厚計そのものの日本産業規格として「JIS B 7728」に言及する記述を目にすることがありますが、今回の調査ではこの規格番号と正式名称を一次情報で確認できませんでした。確認できたのは、塗料側の試験方法規格であるJIS K 5600-1-7「塗料一般試験方法-第1部:通則-第7節:膜厚」の存在と、そこに「くし型ウェットフィルム膜厚計」「ロータリー型ウェットフィルム膜厚計」が位置づけられていることです(日本規格協会 JIS K 5600-1-7 訂正票)。また膜厚計メーカーのカタログでは、準拠規格としてJIS K 5600-1-7、JIS H 0401、ISO 2178、ISO 2360、ISO 2808などが挙げられています。

「弊社は膜厚計で測定します」が成り立つ場面と、成り立たない場面

結論は、「鉄部なら成り立つ」「塗りたての濡れた状態なら成り立つ」「外壁本体の硬化後は成り立ちにくい」の3つに分かれます。この区別を業者の説明に当てはめるだけで、説明の中身が本物かどうかかなり見えてきます。

鉄部の膜厚管理は公的仕様書にも実在する

金属素地の塗装では、使用量と膜厚を対応づけた表が公的な仕様書に載っています。大阪市水道局の塗装仕様では「ペイント標準使用量」として、たとえば一般さび止めペイントのエアレススプレー塗・下塗で180g/㎡(35µm)、はけ塗・下塗で140g/㎡(35µm)、エポキシ樹脂塗料のエアレススプレー塗・中塗で220g/㎡(40µm)といった数値が示されています(大阪市水道局 塗装仕様)。

同資料の注記には「上表の数値は、塗装作業中に飛散したものや、残余塗料で使用不能等になった塗料のロス分を含んだものである」と明記されています。この一文は後で重要になりますので、覚えておいてください。

なお、この表は水道施設の鋼構造物を対象にしたものです。住宅の窯業系サイディングやモルタル外壁の塗り替えに、この数値をそのまま当てはめることはできません。ここでは「使用量と膜厚を対応づける考え方が公的仕様書に存在する」という事実の確認までにとどめます。

ウェット膜厚計は「塗った直後」に使う道具

くし型のウェットフィルム膜厚計は、塗ったばかりの濡れた塗膜に櫛状の歯を押し当て、どの歯まで塗料が付いたかで厚みを読む道具です。安価で、素地が金属かどうかに関係なく使えます。ただし濡れている瞬間しか測れません。乾いて硬化したあとでは出番がありませんし、乾燥後の膜厚は塗料の固形分比率によって変わるので、ウェット膜厚の数字がそのまま仕上がりの膜厚になるわけでもありません。

場面膜厚計で測れるか使う方式施主が立ち会えるか
雨戸・面格子・鉄骨階段・手すりなどの鉄部(硬化後)測れる電磁誘導式立ち会える
アルミ製の部材(硬化後)測れる渦電流式立ち会える
窯業系サイディング外壁(硬化後)一般的な膜厚計では測れない該当なし立ち会っても確かめられない
モルタル外壁(硬化後・薄い塗り替え塗膜)セメント系素地向けの超音波式は原理上対象だが、下限150µmを下回る可能性がある/旧塗膜との合計しか出ない超音波式機器がある現場に限られる
外壁に塗った直後(濡れている状態)測れるくし型・ロータリー型ウェットフィルム膜厚計その場に居合わせる必要がある
出典:ケツト科学研究所カタログ、日本規格協会 JIS K 5600-1-7、エルコメーター製品情報をもとに編集部で整理

この表を手元に置いて、「膜厚計で測定します」と説明する業者に「外壁本体はどの方式で測るのですか」と一度だけ聞いてみてください。鉄部とウェット時の話であれば、きちんと説明が返ってきます。外壁本体の硬化後を測ると言うなら、機種名と適用素地を聞けば十分です。

施主が事後に検証できる唯一の線は「使った塗料の量」

結論です。外壁本体について施主が事後に手を付けられるのは、「塗装面積 × メーカーが示す所要量 = 必要な缶数」と、現場に残った空缶の実数を突き合わせること。これだけです。

この照合が成り立つ根拠が2つあります。

根拠1:公的仕様書の所要量は「以上」=下限が示されている

建築用仕上塗材の所要量は、公共建築工事標準仕様書で「○○以上」という形で規定されています。国立研究開発法人建築研究所の資料は、公共建築工事標準仕様書 平成22年版を出典として、仕上塗材の所要量(kg/㎡)と塗り回数を表にまとめています(建築研究所「外装塗り仕上げ」)。塗料メーカーが公開している公共仕様書対応資料でも同じ「以上」表記が使われています(日本ペイント 公共仕様書対応資料)。

つまり「これ未満では仕様を満たさない」という床が存在するわけです。「以上」なので上限はありません。ここが照合の足場になります。

仕上塗材・工程所要量(kg/㎡)塗り回数出典
外装薄塗材Si 吹付け/下塗材0.1以上1建築研究所(公共建築工事標準仕様書 平成22年版)
外装薄塗材Si 吹付け/主材1.0以上2同上
外装薄塗材Si ローラー/主材0.6以上1〜2同上
外装薄塗材E ローラー/主材0.6以上2日本ペイント 公共仕様書対応資料
防水形外装薄塗材E/増塗材0.7以上1同上
防水形外装薄塗材E/主材基層1.0以上1同上
複層塗材RE/上塗材0.25以上2同上
複層塗材E 吹付け/主材基層1.5以上1建築研究所(同上)
外装厚塗材C 吹付け/主材1.2以上2建築研究所(同上)
出典:建築研究所「外装塗り仕上げ」、日本ペイント 公共仕様書対応資料。公共建築工事標準仕様書の版によって数値が変わる可能性があります

住宅向けの一般的な塗料の場合、メーカーは「標準塗坪」として缶あたりの塗装可能面積を公開しています。エスケー化研の水性セラミシリコンは「標準塗坪 45〜64m2/16kg缶、11〜16m2/4kg缶」(エスケー化研 水性セラミシリコン)、クリーンマイルドシリコンは「42〜68m2/15kgセット」「11〜18m2/4kgセット」(エスケー化研 クリーンマイルドシリコン)と記載されています。この幅の広さ自体が、1缶で塗れる面積は条件次第で1.4倍前後も変わるという事実を示しています。

なお、この2製品のページには所要量(kg/㎡)、標準膜厚、塗り回数、希釈率の明示は確認できませんでした。詳細は製品ごとの施工仕様書を取り寄せる必要があります。

照合の出発点になる塗装面積の出し方そのものは、この記事では扱いません。延床坪数からの簡易式、その係数の出所、窓などの開口部をどう引くかといった論点は外壁の塗装面積の計算方法でまとめています。この記事は「面積と所要量から缶数を出せたとして、その先どこまで言えるのか」という膜厚の一点に絞ります。

根拠2:空缶を記録として扱う運用は、公的な工事マニュアルに前例がある

「空缶を取っておいてほしい」という依頼は、神経質なクレーマーの要求ではありません。公的な発注者が請負人に課している記録要領に、同じことが書かれています。

神戸市建築課の「請負人用外壁改修工事マニュアル」の「工事写真撮影要領」には、「材料毎に搬入状況、施工数量が正確に確認できるよう使用済み缶(袋、包み等)に、通し番号で印を付け、撮影する」と記載されています(神戸市 請負人用外壁改修工事マニュアル)。同資料には既存塗膜付着力試験結果や高圧水洗機・塗膜はく離剤の試験施工結果の報告も求められています。

公的発注者が求めているのは「通し番号を付けて撮影する」ところまでです。ということは、民間の住宅工事でも、「空缶は撤去せず残してください」「通し番号を付けて撮影してください」は十分に通る依頼ということになります。これを着工前に言うか、工事が終わってから言うかで、結果は天と地ほど違います。

缶数が足りていることと、膜厚が出ていることは別の話

ここがこの記事の核心です。結論を先に書きます。空缶照合でわかるのは「現場に搬入され、開封された塗料の量」まで。それが壁の上にどれだけの厚みで残っているかは、空缶の数からは出てきません。

缶数が合っていても膜厚が出ていない可能性は、少なくとも4通りあります。

1. 所要量には「ロス分」が含まれている

公共建築改修工事標準仕様書に対応した塗料メーカーの技術資料には、所要量の定義がこう書かれています。「所要量(被塗装単位面積あたりの塗料材料(希釈する前)の使用量)はロス分も含むため、塗付け量より多くなります」(新東塗料 公共建築改修工事標準仕様書対応資料)。同資料では塗付け量が下塗り0.07、中塗り0.10、上塗り0.10(kg/㎡)、工程は下塗り・中塗り・上塗りの各1回、塗装間隔は20℃で3時間以上とされています。

大阪市水道局の仕様の注記も同じ趣旨で、標準使用量には飛散分や使用不能になった分が含まれています。つまり所要量どおりの缶数を使っても、壁に乗る量は所要量より少ないのが前提です。そして「どれだけ飛散したか」は、現場の風や気温、吹付けかローラーかで変わります。ここが争いの逃げ道になります。

2. 希釈で量は増やせる

所要量は「希釈する前」の使用量です。ところが缶の数は、中身を薄めても変わりません。規定より多く水やシンナーを入れれば、同じ缶数で広い面積を塗れてしまいます。空缶の数だけを見ると「ちゃんと使っている」ように見えるのに、1㎡あたりの樹脂の量は減っているという状態です。

希釈率は製品ごとに施工仕様書で決まっています。だから書面で押さえるべきは缶数だけでなく、製品名と希釈の条件まで含めるのが筋です。

3. 工程間で量を付け替えられる

外壁塗装は下塗り・中塗り・上塗りで別の材料を使います。工程ごとに所要量が決まっているので、合計の缶数が合っていても、工程ごとの配分が崩れていれば仕様どおりではありません。たとえば下塗り材を多めに使い、上塗り材を薄く延ばしても、全体の「重さ」はつじつまが合ってしまいます。

だから照合は合計缶数ではなく工程別・製品別でやる必要があります。塗り回数そのものの意味は外壁塗装の3回塗りの意味で整理しているので、下塗りと上塗りの役割の違いはそちらをご覧ください。

4. 塗りムラは平均値では見えない

缶数照合でわかるのは平均です。しかし膜厚不足が起きやすいのは、足場の届きにくい箇所、裏側、2階の窓まわり、手を伸ばして塗った高所といった特定の場所です。全体の平均が足りていても、そこだけ薄いことは十分にありえます。逆に、どこか1箇所が薄いことを見つけても、それが平均の不足を意味するわけでもありません。

照合でわかること照合でわからないこと
搬入され開封された塗料の量(空缶の実数)壁に実際に乗った量(ロス分が差し引かれる)
使われた製品名(缶のラベル)現場で何倍に希釈されたか
工程別の缶数(工程別に空缶を分けて残した場合)1回ごとの塗り厚の配分
仕様書の所要量の下限を満たす缶数が入ったかどうか特定の箇所の膜厚が足りているか
必要缶数と空缶数に大きな乖離があるという事実その乖離が瑕疵にあたるかどうかの法的評価
出典:新東塗料 公共建築改修工事標準仕様書対応資料、大阪市水道局 塗装仕様の所要量・標準使用量の定義をもとに編集部で整理

整理すると、空缶照合は「膜厚不足を立証する証拠」ではなく「説明を求めるための根拠」です。缶数が明らかに足りなければ、業者に説明を求める正当な理由になります。しかし「缶数が合っているから膜厚は出ている」とは言えませんし、「缶数が足りないから膜厚不足だ」と断定することもできません。この線引きを曖昧にしたまま交渉に入ると、話がこじれるだけです。

所要量の数字は、資料ごとに食い違う

結論。同じ仕上塗材の名前でも、資料や工法によって所要量が1.7倍近く違います。だから「必要缶数」は一意に決まる数字ではありません。この前提を知らずに缶数を計算すると、自分の計算のほうが間違っているのに業者を疑ってしまうことになります。

今回確認できた食い違いは、主に次の3種類でした。

  • 工法による違い。外装薄塗材Siの主材は、吹付けなら1.0以上、ローラーなら0.6以上です(建築研究所資料、公共建築工事標準仕様書 平成22年版より)。同じ塗材名でも、施工方法が違えば必要量は約1.7倍変わります。
  • 塗り回数の表記の違い。日本ペイントの資料では外装薄塗材Si(砂壁状)の主材が「1.0以上・1〜2回」。建築研究所の表では吹付けが「1.0以上・2回」、ローラーが「0.6以上・1〜2回」。回数の幅の書き方が資料によって揺れています。
  • 所要量が1回分か工程合計かの読み取りにくさ。公共建築改修工事標準仕様書に対応した資料では、所要量は工程ごとの数値であり、かつロス分を含んだ希釈前の使用量と定義されています。一方、製品カタログの「標準塗坪」は、何回塗った場合の面積なのかが読み取りにくい書き方のものもあります。

また、公共建築工事標準仕様書は改定されます。菊水化学工業が公開しているシリカリシンの仕様書は「令和7年版」を参照し、主材の所要量を「1.0以上」、塗回数を「2」としています(菊水化学工業 シリカリシン仕様)。どの版の仕様書に基づいた数字なのかを確認せずに比較しても、議論は噛み合いません。

比較軸どう食い違うか施主が確認すべきこと
工法外装薄塗材Si 主材:吹付け1.0以上/ローラー0.6以上見積書の工法(吹付けかローラーか)
塗り回数「2回」と「1〜2回」が資料で混在仕様書に何回と書いてあるか
所要量の定義ロス分を含む希釈前の使用量(=壁に乗る量ではない)「所要量」か「塗付け量」かどちらの語か
仕様書の版平成22年版・平成28年対応・令和7年版などが並存どの版を根拠にしているか
缶あたりの面積標準塗坪は45〜64m2/16kg缶のように幅で示される幅の上限で計算されていないか
出典:建築研究所「外装塗り仕上げ」、日本ペイント 公共仕様書対応資料、菊水化学工業 シリカリシン仕様、エスケー化研 製品情報をもとに編集部で整理

なお、一部で流通している「外装薄塗材Siの主材所要量が公共建築工事標準仕様書では0.7以上、メーカー資料では1.0以上で食い違っている」という指摘については、今回の調査では再現できませんでした。平成22年版を出典とする建築研究所の表でも吹付けの主材は1.0以上であり、0.7以上という数値は防水形外装薄塗材Eの増塗材、および複層塗材REの主材基層の値として確認できました。別の塗材の数値が混同されたものと考えられます。

また、住宅の外壁塗り替えについて「乾燥膜厚は何µm以上」と定めた公的な規定は、今回の調査では確認できませんでした。公的仕様書が規定しているのは膜厚ではなく所要量です。「膜厚◯◯µmが基準です」という説明を受けたら、その基準の出所を尋ねるのが妥当です。

事後の立証は難しい。だから着工前に書面で約束させる

結論。膜厚不足への最も実効性のある対策は、着工前に「使用塗料の製品名・工程別の必要缶数・空缶の保管」を書面に残すことです。工事が終わってから覆すのは、制度の上でも実務の上でも相当に不利です。

事後の立証がどれだけ不利か

冒頭でも触れた住まいるダイヤルの相談事例を、もう少し詳しく見ます。130万円の外壁塗装・屋根修理工事の後、塗装にムラがあり、アルミサッシや雨樋にペンキの汚れが付いた、業者と連絡が取れない、契約を解除したいという相談でした。

回答では、品質が契約上・社会通念上の基準を下回る場合を瑕疵と呼ぶとした上で、「塗装のムラが瑕疵とされるかどうかは、かなり微妙な判断となる事柄」とされ、最終的には裁判官の評価で決まると説明されています。対照的に、塗装すべき範囲外に付いた汚れについては比較的判断しやすく、清掃費用相当額の損害賠償請求や工事代金との相殺が可能とされています。また、支払督促などの法的措置を避けるため、メールやファクスなど記録が残る方法で交渉することが勧められています。

ここから読み取るべきことは明確です。目に見える「ムラ」でさえ微妙な判断になる。目に見えない「膜厚」はもっと難しい。そして「範囲外の汚れ」のように客観的に示せるものは通りやすい。だから施主の戦略は、「膜厚が足りているか」を争うのではなく、「約束した製品を約束した量だけ使ったか」という客観的に示せる形に問題を置き換えることになります。これが書面と空缶で押さえる意味です。

制度上の期間にも注意が必要です。国土交通省の資料によれば、請負契約で引き渡された目的物が種類または品質に関して契約の内容に適合しない場合、注文者は追完請求、報酬減額請求、損害賠償請求、契約解除ができるとされています(民法第636条)。また第562条は「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる」と定めています。一方で第637条は、注文者が不適合を知った時から「一年以内にその旨を請負人に通知しないときは」その権利を行使できないとしています(国土交通省 瑕疵担保責任について)。法的な判断は個別の事情で変わるため、具体的な見通しは専門家にご相談ください。

その相談先として、住まいるダイヤルの専門家相談があります。弁護士と建築士の対面相談で、費用は「原則無料です」、相談時間は1時間とされています。リフォーム工事を行う住宅の所有者も対象に含まれますが、すでに訴訟・調停・ADRに入っている案件は対象外です(住まいるダイヤル 専門家相談)。

着工前に書面化する項目

ここまでの内容を、契約前の依頼事項に落とします。いずれも真面目な業者なら即答できる内容です。答えに詰まる、あるいは不快感を示す場合、その反応そのものが判断材料になります。

  • 使用塗料の製品名・メーカー名・色番を工程別に明記する。「シリコン塗料」のような分類名だけでは所要量を引けません。
  • 工法を明記する。吹付けかローラーかで所要量が1.7倍近く変わるためです。
  • 工程ごとの塗り回数と、想定する缶数(または所要量)を書く。合計ではなく工程別に分けるのが要点です。
  • 根拠にする仕様書の版を書いてもらう。平成22年版か令和7年版かで数値が動きます。
  • 希釈の条件を製品の施工仕様書どおりとする旨を書く。缶数だけでは希釈をふさげません。
  • 空缶を引き渡しまで保管し、通し番号を付けて撮影することを約束させる。神戸市の工事写真撮影要領と同じ運用です。
  • 工程ごとの施工写真(下塗り後・中塗り後・上塗り後)を同じアングルで撮ることを約束させる。これは膜厚ではなく「塗り回数」の記録になります。
書面化する項目なぜ必要かこれがないとどうなるか
製品名・メーカー名・色番(工程別)メーカーの所要量・標準塗坪を引く起点になる必要量の計算ができない
工法(吹付け/ローラー/刷毛)所要量が工法で大きく変わる缶数の妥当性を判断できない
工程別の塗り回数と缶数工程間の付け替えを防ぐ合計が合えば説明が通ってしまう
根拠とする仕様書の版版によって所要量が異なる数値の比較が噛み合わない
希釈条件(製品の施工仕様書どおり)希釈で量を増やせるため缶数が合っても濃度が落ちる余地が残る
空缶の保管と通し番号付き撮影搬入・使用の実数を記録に残す工事完了後には検証材料が残らない
工程別の同一アングル写真塗り回数の記録になる「塗ったはず」の争いになる
出典:神戸市 請負人用外壁改修工事マニュアル、新東塗料 公共建築改修工事標準仕様書対応資料、建築研究所「外装塗り仕上げ」をもとに編集部で整理

これらを盛り込む先は見積書と請負契約書です。契約書のどこに何を書いてもらうかはリフォームの請負契約書の見方を参照してください。また、工事完了時に何をどの順で確認するかは完工検査のチェックリストにまとめています。

第三者の目を入れる方法

もう一つの選択肢が、リフォーム瑕疵保険です。国土交通省の説明では「リフォーム時の検査と保証がセットになった保険制度」で、住宅瑕疵担保責任保険法人が引き受け、「リフォーム工事の施工中や工事完了後に、第三者検査員(建築士)による現場検査を行」い、欠陥が見つかった場合に補修費用が支払われる仕組みです。加入する事業者は保険法人への事業者登録が必要とされています(国土交通省 リフォーム瑕疵保険)。

ここで注意したいのは、第三者検査員も硬化後の外壁の膜厚を測るわけではないという点です。検査が見るのは施工状況や仕様との整合です。それでも、工事中に外部の目が入る事実には意味があります。

そして最も基本的な注意点として、訪問販売や「無料点検」をきっかけにした契約には相談が集中しています。国民生活センターの集計では、点検商法に関する相談件数は2023年度12,550件、2024年度19,249件、2025年度19,696件。訪問販売によるリフォーム工事の相談は2023年度11,879件、2024年度9,839件、2025年度5,544件です。いずれも2026年5月31日現在の集計で、消費生活センター等からの経由相談は含まれていません(国民生活センター 点検商法・訪問販売リフォーム)。同ページは「安易に契約せず、まずは点検の要否を確認しましょう」と呼びかけています。

見積書を複数社から取り、仕様・数量・単価をそろえて比べることが基本です。住まいるダイヤルも、複数事業者から見積もりを取得して比較表を作ること、工事箇所・数量・単価をチェックすること、追加工事の取り扱いを事前に打ち合わせることを挙げています。膜厚以外の施工不良のサインについては外壁塗装の施工不良の見分け方を、工事後の保証の扱いについては外壁塗装の保証書をあわせてご覧ください。

よくある質問

業者に膜厚計で測ってもらえば、手抜きかどうかわかりますか

部位によります。雨戸・面格子・鉄骨階段・手すりなどの鉄部、アルミ製の部材であれば、電磁誘導式・渦電流式の膜厚計で硬化後の塗膜を測れます。一方、窯業系サイディングやモルタルの外壁本体については、これらの方式は素地が金属であることを前提にしているため使えません。セメント系素地に対応した超音波式の膜厚計は存在しますが、公開仕様では下限が0.15mm(150µm)とされており、塗り替えの薄い塗膜では下限に届かない可能性があります。加えて測れるのは旧塗膜を含んだ合計であり、今回塗った分だけを切り出すことにはなりません。

空缶の数が見積りより少なかったら、やり直しを請求できますか

「請求できる」と断定はできません。民法第636条は、請負人が種類または品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を引き渡した場合に、注文者が追完請求などをできると定めています。しかし「缶数が少ない」ことが「契約の内容に適合しない」と評価されるかは別問題です。住まいるダイヤルの相談事例では、目に見える塗装のムラについてさえ「かなり微妙な判断となる事柄」とされ、最終的には裁判官の評価になると説明されています。また所要量にはロス分が含まれるため、「使った量が所要量より少ない」こと自体は起こりうる話です。まずは記録が残る方法で説明を求め、必要なら専門家相談を利用するのが現実的な順序です。

必要な缶数は自分で計算できますか

おおまかな目安は出せます。塗装面積に、使う製品の所要量(kg/㎡)をかければ必要な材料の重さが出て、缶のサイズで割れば缶数になります。ただし注意点が3つあります。第一に、所要量は工法で大きく変わります(外装薄塗材Siの主材は吹付け1.0以上、ローラー0.6以上)。第二に、メーカーの「標準塗坪」は45〜64m2/16kg缶のように幅で示されており、どちらを採るかで結果が変わります。第三に、所要量はロス分を含む希釈前の使用量です。塗装面積の出し方そのものは外壁の塗装面積の計算方法の記事で扱っています。

「膜厚◯◯µm以上で施工します」という説明は信頼できますか

説明そのものが間違いというわけではありませんが、その数値の出所を確認してください。今回の調査では、住宅の外壁塗り替えについて乾燥膜厚の下限を定めた公的な規定を確認できませんでした。公共建築工事標準仕様書が規定しているのは膜厚ではなく、工程ごとの所要量(kg/㎡)で、しかも「以上」という下限表記です。一方で金属素地の塗装では、大阪市水道局の仕様のように使用量と膜厚を対応づけた表が実際に使われています。ですから「µmで管理する」という説明は、鉄部であれば整合します。外壁本体についてそう説明された場合は、どの資料のどの数値かを聞いてみるのが妥当です。

工事が始まってしまいました。今からできることはありますか

3つあります。第一に、空缶を撤去せず残すよう今すぐ依頼することです。公的な工事マニュアルでも「使用済み缶に通し番号で印を付け、撮影する」ことが求められており、不自然な要求ではありません。第二に、工程ごとに同じアングルで写真を撮ってもらうことです。これは膜厚ではなく塗り回数の記録になります。第三に、やり取りをメールやファクスなど記録が残る方法に切り替えることです。住まいるダイヤルの回答でも、記録が残る方法での交渉が勧められています。口頭でのやり取りは、後から何も残りません。

まとめ

外壁塗装の膜厚不足について、確認できた事実を整理します。

  • 一般に流通する膜厚計は、電磁誘導式が磁性金属上の非磁性被膜、渦電流式が非磁性金属上の絶縁被膜を測る方式です。窯業系サイディングやモルタルの外壁本体には、原理上使えません
  • セメント系素地向けの超音波式膜厚計は実在しますが、公開仕様の下限は0.15mm(150µm)。塗り替えの薄い塗膜では下限に届かない可能性があり、旧塗膜との合計しか出ません
  • 鉄部・アルミ部なら硬化後でも測れます。「膜厚計で測定します」は、この範囲なら筋が通る説明です
  • 公共建築工事標準仕様書系の資料が規定しているのは膜厚ではなく、工程別の所要量(kg/㎡)で「○○以上」という下限表記です。住宅の外壁塗り替えについて乾燥膜厚の下限を定めた公的規定は確認できませんでした
  • 所要量は工法で大きく変わります(外装薄塗材Siの主材:吹付け1.0以上/ローラー0.6以上)。また所要量はロス分を含む希釈前の使用量であり、壁に乗る量とは別です
  • 空缶照合でわかるのは「搬入され開封された量」まで。希釈・工程間の付け替え・部位ごとのムラは缶数からは見えません。缶数が合うことと膜厚が出ていることは別の話です
  • 事後の立証は不利です。住まいるダイヤルの相談事例では、塗装のムラが瑕疵とされるかは「かなり微妙な判断となる事柄」とされています。民法第637条は、注文者が不適合を知った時から1年以内の通知を求めています
  • 最も実効性があるのは着工前の書面化です。製品名・工法・工程別の塗り回数と缶数・根拠にする仕様書の版・希釈条件・空缶の保管と通し番号付き撮影。神戸市の工事写真撮影要領と同じ運用を依頼するだけです

「膜厚を測って手抜きを暴く」という筋書きは、測定原理からいって住宅の外壁には当てはまりません。かわりに有効なのは、約束を数字で書かせ、使った量を記録に残させることです。工事が終わってから争うより、契約書に一行足すほうが、はるかに確実で、お互いにとって気持ちのよい方法です。

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リフォーム編集部のアバター リフォーム編集部 株式会社スゴヨク|編集部

「リフォーム」編集部です。運営は株式会社スゴヨク(福岡市中央区/Webサイト制作・Webマーケティング)。外壁塗装・屋根工事・外構リフォームの費用や業者選びを、国土交通省・国民生活センター・住宅リフォーム推進協議会などの一次情報にあたって解説しています。金額や制度には必ず出典を明記し、確認できなかったことは「未確認」と書く方針です。当サイトは施工を行っておらず、特定の業者への送客を目的としない立場で編集しています。

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