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屋根の葺き替えは、延床30坪(屋根面積55〜64㎡)の戸建てで総額100万〜200万円台が一つの目安です。金額を決めているのは新しい屋根材の値段ではなく、「既存屋根材の撤去費」と「廃材処分費」です。とくに2004年10月より前に葺かれた化粧スレートはアスベスト(石綿)を含む可能性があり、撤去・処分の単価が上がるだけでなく、大気汚染防止法と石綿障害予防規則にもとづく事前調査と行政への報告が法令上の義務になります。この記事では、費用を工程別に分解したうえで、アスベストまわりの法令を環境省・厚生労働省の資料で確認していきます。
あらかじめお断りしておくと、屋根工事に国が定めた標準単価はありません。本記事の金額はすべて民間の屋根工事会社・解体業者・比較サイトが公表している数値で、幅で示したうえで出典を明記しています。一方、アスベストに関する部分は法令とその根拠資料に基づいて書き、確認できなかったことは書いていません。
屋根の葺き替え費用の相場|延床30坪で100万〜250万円が目安
結論から言うと、延床30坪クラスの戸建てで屋根を全面的に葺き替える場合、総額100万〜250万円前後が公表値の中心帯です。㎡単価に直すと、既存屋根の撤去から新しい屋根材の施工までを含めて約15,000〜17,000円/㎡が一つの目安になります。
公表されている数値を並べると、次のようになります。
- 屋根無料見積.com……スレート屋根をスレートへ葺き替える場合の合計単価は約15,000円/㎡、ガルバリウム鋼板へ葺き替える場合は約17,000円/㎡(いずれも税別)
- シズオカペイントプロ……延床25坪前後で100万〜200万円前後、30坪前後で120万〜240万円前後、40坪前後で150万〜290万円前後、50坪前後で180万〜350万円前後。30坪の見積例では合計130万〜250万円前後
- 三州瓦の神清……工程別の㎡単価を一覧で公開。撤去1,500〜3,000円/㎡、処分1,500〜3,000円/㎡、新規屋根材5,000〜12,000円/㎡など
「30坪」で総額を語る前に、屋根が何㎡かを確認する
ここが最初の分岐点です。延床30坪(約99㎡)の住宅の屋根面積は、55〜64㎡が目安とされています(外壁塗装110番の坪数別早見表)。ところが、葺き替えの費用記事の多くは「30坪=屋根100㎡」として総額を計算しています。前提が1.6倍違えば、出てくる総額も1.6倍違ってきます。
屋根面積は、真上から見た投影面積に勾配伸び率を掛けて求めます。同資料によれば伸び率は3寸勾配で1.044、4寸勾配で1.077、5寸勾配で1.118です。総2階か、1階部分に下屋(げや)があるかでも面積は変わります。ですから、「30坪だからいくら」ではなく、「うちの屋根は何㎡だからいくら」で考えてください。
| 屋根面積の前提 | ㎡単価15,000円なら | ㎡単価17,000円なら |
|---|---|---|
| 55㎡(延床30坪の下限) | 約82万円 | 約94万円 |
| 64㎡(延床30坪の上限) | 約96万円 | 約109万円 |
| 80㎡ | 約120万円 | 約136万円 |
| 100㎡(多くの記事の前提) | 約150万円 | 約170万円 |
お気づきのとおり、屋根面積の前提が変わるだけで金額は倍近く動きます。相見積もりを取るときは、各社の見積書に「屋根面積 ○○㎡」が書かれているかをまず確認してください。数量が「一式」でまとめられている見積書の読み方については、国土交通大臣指定の住宅リフォーム紛争処理支援センターが運営する住まいるダイヤルが、見積書のセルフチェック方法を無料で公開しています。
費用の内訳を工程別に分解する|総額を左右するのは撤去・処分費
葺き替えの費用構造でもっとも重要なのは、既存屋根材の撤去費と廃材処分費が、総額の2〜3割を占めるという点です。この2項目は新しい屋根材のグレードとは無関係に発生し、しかも「今の屋根が何か」によって単価が大きく変わります。だからこそ、ここが総額を左右します。
| 工程 | ㎡単価の目安 | 屋根60㎡での金額 | ポイント |
|---|---|---|---|
| ①仮設足場・飛散防止シート | 600〜1,500円/㎡(足場面積) | 15万〜30万円 | 屋根面積ではなく足場架面積で計算する |
| ②既存屋根材の撤去 | 1,500〜3,000円/㎡ | 9万〜18万円 | 瓦・アスベスト含有スレートは上がる |
| ③廃材の運搬・処分 | 1,500〜3,000円/㎡ | 9万〜18万円 | 石綿含有だと産廃の扱いが変わる |
| ④下地補修・野地板増し張り | 2,500〜4,000円/㎡ | 15万〜24万円 | めくるまで必要量が確定しない |
| ⑤防水シート(ルーフィング) | 500〜1,500円/㎡ | 3万〜9万円 | 改質アスファルトは700〜1,000円/㎡ |
| ⑥新しい屋根材+施工費 | 5,000〜12,000円/㎡ | 30万〜72万円 | 屋根材の種類で最も差が出る |
| ⑦棟・ケラバ・谷などの役物 | 1,500〜5,500円/m | 10万〜30万円 | ㎡ではなくm単価。屋根形状で変動 |
| ⑧諸経費・現場管理費 | 工事費の8〜10% | 8万〜20万円 | 含まれる範囲の定義が会社ごとに違う |
既存屋根が何かで、撤去・処分費は2倍以上変わります
三州瓦の神清が公開している「既存屋根撤去・処分費」の一覧は、この差をはっきり示しています。
- トタン屋根……2,000〜2,500円/㎡
- 無石綿(ノンアスベスト)スレート屋根……3,000〜3,500円/㎡
- 瓦屋根……3,000〜3,500円/㎡
- 石綿(アスベスト)スレート屋根……5,000〜5,500円/㎡
- 土葺き瓦屋根……5,000〜5,500円/㎡
- カバー工法による2重屋根……10,000〜11,000円/㎡
同じスレート屋根でも、石綿を含むかどうかで撤去・処分費は約2,000円/㎡違います。屋根60㎡なら約12万円の差です。そして最後の行、すでに一度カバー工法をしている2重屋根は10,000〜11,000円/㎡と、無石綿スレートの3倍前後になります。屋根カバー工法の費用とデメリットで触れた「いま安い代わりに次が高い」という構造が、この単価に表れています。
もうひとつ注意していただきたいのが④の下地補修です。野地板の傷み具合は、既存屋根をめくるまで正確には分かりません。したがって見積段階の金額はあくまで想定であり、着工後に増える可能性があります。契約前に「野地板の交換が必要になった場合の㎡単価はいくらか」「どう追加精算するのか」を書面で確認しておくと、後の揉め事を減らせます。
【本記事の核心】アスベスト含有屋根材だと、費用も手続きも変わります
ここが葺き替えを検討するうえで、もっとも見落とされやすく、もっとも金額に効く論点です。結論を先に書くと、2004年10月より前に製造された住宅屋根用化粧スレートには石綿が含まれている可能性があり、その場合は撤去・処分の単価が上がるうえに、法令上の事前調査と行政への報告が義務づけられます。これは業者側の義務ですが、費用として最終的に施主が負担する部分でもあります。
まず年代を確認する|2004年10月・2006年9月が境目
厚生労働省の資料によれば、平成16年(2004年)10月1日から、労働安全衛生法施行令の改正により「住宅屋根用化粧スレート」「石綿含有スレートボード」などの石綿含有製品(重量1%超)の製造・輸入・使用等が禁止されました(出典:厚生労働省「石綿含有製品の製造等禁止について」)。さらに平成18年(2006年)9月1日からは、石綿および石綿を重量の0.1%を超えて含有するすべての物の製造・輸入・譲渡・提供・使用が禁止されています(出典:厚生労働省リーフレット)。
環境省が公開している事前調査の解説資料でも、「平成18(2006)年9月1日以後に設置の工事に着工した建築物等は、石綿含有建材が使用されていないと判断することができる」とされています(出典:環境省「付録Ⅰ 事前調査の方法」)。裏を返せば、それ以前に着工した建物は、書面と目視による調査が必要になるということです。
ご自宅の築年数を思い出してください。2004年以前に新築、あるいは2004年以前にスレート屋根を葺いた住宅であれば、石綿含有の可能性を前提に話を進めるのが安全です。なお、含有の有無は見た目では判断できません。製品名から特定するか、分析調査を行う必要があります。
法令上、何が義務になっているのか
アスベストに関する規制は、環境省が所管する大気汚染防止法(周辺住民の健康被害防止)と、厚生労働省が所管する石綿障害予防規則(作業者の健康障害防止)の二本立てになっています。令和2年の大気汚染防止法改正により、それまで規制対象外だった石綿含有成形板等(いわゆるレベル3。スレート屋根材はここに含まれます)も規制対象に加わりました。
| 義務の内容 | 施行時期 | 屋根葺き替えでの意味 |
|---|---|---|
| 規制対象がすべての石綿含有建材に拡大(レベル3を含む) | 令和3年4月1日 | スレート屋根材の撤去も法の対象になった |
| 解体・改修工事の全材料について事前調査(書面+目視)を実施 | 令和3年4月1日 | 葺き替え前の調査は省略できない |
| 事前調査結果の記録を作成し、工事現場に備え置き・3年間保存 | 令和3年4月1日 | 施主も記録の写しを求められる |
| 調査結果を書面で発注者(施主)へ説明 | 令和3年4月1日 | 口頭だけの説明は基準を満たさない |
| 石綿含有成形板等は「切断・破砕等することなく取り外す」のが原則 | 令和3年4月1日 | 割りながら剥がす手法は原則不可。手間が増える |
| 事前調査結果と作業内容をA3サイズ以上で掲示 | 令和3年4月1日 | 現場の掲示物で確認できる |
| 一定規模以上の工事は電子システムで行政へ報告 | 令和4年4月1日 | 改修工事は請負金額100万円以上(税込)が対象 |
| 事前調査は有資格者(建築物石綿含有建材調査者等)が実施 | 令和5年10月1日 | 誰でも調査してよいわけではない |
とくに注目していただきたいのが、報告義務の規模要件です。環境省・厚生労働省の報道発表によれば、報告対象は「建築物の解体工事は床面積の合計80㎡以上」「建築物の改修工事は請負代金の合計100万円以上(税込)」「工作物の解体・改修工事は請負代金の合計100万円以上」とされています。屋根の葺き替えは改修工事にあたり、前述のとおり総額は100万円を超えることがほとんどです。つまり、一般的な戸建ての屋根葺き替えは、ほぼ必ず事前調査結果の報告対象になります。この報告は都道府県等と労働基準監督署の双方に対して、電子システムで行われます。
また、環境省リーフレットによれば、令和3年4月からは罰則も強化されており、隔離等をせずに吹付け石綿等の除去を行った場合の直接罰(3月以下の懲役または30万円以下の罰金)が創設され、下請負人にも規制が適用されるようになりました。石綿含有成形板等の除去方法違反についても、同様の罰則の対象です。
アスベスト含有だと費用はいくら上がるのか
ここは公的な単価が存在しない領域なので、民間の公表値を並べます。数値には幅があり、業者によって前提が異なる点を承知のうえでお読みください。
- 三州瓦の神清……石綿スレート屋根の撤去・処分5,000〜5,500円/㎡に対し、無石綿スレート屋根は3,000〜3,500円/㎡
- 街の屋根やさん千葉中央店……ノンアスベストのスレート屋根の解体・処分は1㎡あたり3,000〜5,000円前後、アスベストを含むスレート屋根は1㎡あたり7,000円前後になることが多い
- アスベスト除去ナビ……レベル3の屋根スレート撤去は3,000〜8,000円/㎡(税抜)。事前調査・分析調査費は3万〜15万円、一般的な戸建ての目安は30万〜60万円
- 解体無料見積ガイド……アスベスト含有スレートの撤去・処理は30,000〜45,000円/立方メートル。実例として石綿事前調査費45,000円を計上したケースを掲載
これらを総合すると、屋根60㎡でアスベスト含有だった場合、非含有と比べて撤去・処分費で12万〜20万円前後、加えて事前調査・分析費で3万〜15万円程度の上振れが一つの目安、という整理になります。ただし、これは公表値からの試算であり、公的な統計に基づく数値ではありません。実際の金額は必ず現地調査と見積書で確認してください。
補助金は「調査」には出ても「屋根材の除去」には出ないことが多い
アスベストの調査・除去には自治体の助成制度があります。ただし、戸建ての屋根材(レベル3)については、期待どおりに使えないことが多い点を正直にお伝えします。
たとえば東京都足立区の制度では、平成18年8月31日以前の建築物を対象に、分析調査へ最大10万円(費用の2分の1)の助成があり、令和7年1月からは成形板を含むすべての建材の分析調査が対象になりました。しかし除去工事の助成は「アスベストを含有する吹付材(塗装材を除く)の除去」に限定されており、成形板(レベル3)である屋根スレートの除去は助成対象に含まれていません(出典:足立区「アスベスト調査・除去工事に関する助成制度」)。
制度の内容は自治体によって異なりますので、お住まいの市区町村の建築指導課・環境課へ直接確認してください。「調査費だけでも補助が出るなら使う」という発想で問い合わせる価値はあります。自治体の制度の探し方や申請の流れは外壁塗装の助成金でも解説しています。
施主として確認すべき5つのこと
- 事前調査を「誰が」行ったか。令和5年10月以降、建築物の事前調査は有資格者が行うことが義務です
- 調査結果を書面で受け取ったか。大気汚染防止法では発注者への書面説明が義務です
- 行政への報告を済ませたか。改修工事で請負金額100万円以上(税込)なら報告対象です
- 見積書にアスベスト関連の費用が独立した項目として計上されているか。「一式」に埋もれていないか
- 「分析せずに含有とみなす(みなし含有)」を選ぶ場合、分析費用を省く代わりに処分費が上がる可能性を説明されたか。環境省資料では、みなし含有は発注者が選択でき、再資源化の要否・対策費用・含有可能性を考慮して判断するとされています
逆に言えば、これらに答えられない業者、「アスベストは大丈夫でしょう」と調査せずに言い切る業者は、その時点で候補から外して構いません。業者選びの具体的な基準は屋根修理の業者の選び方で整理しています。
新しい屋根材別の費用と耐用年数
葺き替えでは屋根材を変更できます。これは葺き替え最大のメリットで、次のメンテナンス周期と建物の重さを、ここでコントロールできます。
| 屋根材 | 材工の㎡単価 | 耐用年数の目安 | メンテナンス時期 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| ガルバリウム鋼板(SGL含む) | 6,500〜15,000円/㎡ | 約30〜40年(塩害地域は約15年) | 約20〜25年 | 軽量で耐震上有利。断熱性は低く、断熱材一体型が主流 |
| 化粧スレート | 5,000〜10,000円/㎡ | 約25〜30年 | 約8〜13年(塗装) | 安価でデザイン豊富。定期塗装が前提 |
| 防災瓦・平板瓦(陶器瓦) | 8,000〜22,000円/㎡ | 約50年以上 | 約10〜20年(漆喰・棟の点検) | 再塗装不要。重いぶん下地・構造の確認が必要 |
| アスファルトシングル | 公表値のばらつきが大きい | 約20〜30年 | 約10〜15年 | 軽量で複雑な屋根形状に対応。石粒が剥がれることがある |
| 石粒付き金属屋根 | 11,000〜18,000円/㎡ | メーカー保証で30年前後の製品もある | 製品による | 金属の軽さと意匠性を両立。単価は高め |
アスファルトシングルについては、複数社の公表値を確認しましたが、㎡単価の記載に大きなばらつきがあり、信頼できる中心値を示せませんでした。この点は正直にお伝えしておきます。採用を検討される場合は、具体的な製品名を指定したうえで見積を取ってください。
なお、化粧スレートを選ぶ場合は、次回以降の塗装が前提になります。塗装の周期と費用感はスレート屋根の塗装時期、および屋根塗装の費用相場で解説しています。ライフサイクルコストで比べると、初期費用の安さが必ずしも有利にならない場合があります。
葺き替え・カバー工法・塗装の判断基準
結論として、判断の起点は「予算」ではなく「下地(野地板・防水シート)が健全かどうか」です。下地が傷んでいるなら葺き替え以外の選択肢は実質ありません。逆に下地が健全で、屋根材の表面劣化だけなら塗装やカバー工法で足ります。
| 判断項目 | 塗装 | カバー工法 | 葺き替え |
|---|---|---|---|
| 雨漏りしている | × | △(原因が特定できている場合のみ) | ◎ |
| 野地板・防水シートの劣化が疑われる | × | × | ◎ |
| 屋根材の色あせ・軽微な劣化のみ | ◎ | △ | △(過剰投資になりやすい) |
| 瓦屋根である | ×(陶器瓦は塗装不要) | ×(原則不可) | ◎ |
| すでに一度カバー工法をしている | △ | × | ◎ |
| 屋根を軽くして耐震性を上げたい | × | ×(重くなる) | ◎ |
| アスベスト含有スレートである | △(表面固定にとどまる) | ○(撤去を先送りできる) | △(撤去費と法令対応が発生する) |
| 費用の傾向 | 最も安い | 中間 | 最も高い |
| 下地の確認 | 屋根表面のみ | ほぼできない | 全面を目視できる |
カバー工法が選べない条件
カバー工法は既存屋根の上に新しい屋根材を重ねる工法です。したがって、次の条件のいずれかに当てはまる場合は、原則として選べません。
- 瓦屋根である……瓦は表面に凹凸があり、その上に新しい屋根材を平らに固定できません。土葺きの場合はさらに重量の問題が加わります
- 野地板・垂木が腐朽している……新しい屋根材を留める釘・ビスが効きません。強風時に飛散するおそれがあります
- すでにカバー工法を1回行っている……3層になり、重量・固定の両面で成立しません
- 雨漏りの原因が特定できていない……原因が下地側にある場合、上から覆っても止まりません
- 屋根材の反り・欠損が大きい……下地として平らにならず、新しい屋根材が波打ちます
ここで大切なのは、アスベスト含有かどうかはカバー工法の可否とは無関係だという点です。むしろアスベスト含有スレートの場合、カバー工法は撤去を将来へ先送りできる合理的な選択肢になり得ます。ただし前述のとおり、2重屋根になった後の撤去・処分費は10,000〜11,000円/㎡と跳ね上がります。「今の負担」と「次の負担」を並べて考えてください。雨漏りがすでに出ている場合は、原因を特定してからでないと工法を決められません。
耐震性の観点|屋根が軽くなると地震時の力は小さくなります
葺き替えを選ぶ理由として、費用の次に語られるのが耐震性です。結論から言うと、建物にかかる地震力は建物の重量に比例するため、屋根を軽くすれば、地震時に建物が受ける力は小さくなります。これは感覚論ではなく、建築基準法の壁量規定そのものに組み込まれてきた考え方です。
令和7年3月末までの建築基準法施行令第46条第4項の表2では、必要な壁量が「軽い屋根」と「重い屋根」の区分ごとに定められていました。軽い屋根とは「屋根を金属板、石板、木板その他これらに類する軽い材料でふいたもの」を指し、瓦屋根などはそれ以外=重い屋根として、より多くの耐力壁が必要とされていました。
そして令和7年4月1日施行の改正で、この「軽い屋根/重い屋根」の区分は廃止され、建築物の実際の荷重に応じた算定式で必要壁量を求める方式へ変わりました。新しい算定式では屋根荷重(G1)を独立した入力値として扱います(出典:国土交通省「木造建築物における省エネ化等による建築物の重量化に対応するための必要な壁量等の基準に関する補足資料」、ビューローベリタスジャパン「令和7年4月1日施行 建築基準法 構造耐力規定の改正」)。区分がなくなったからといって、屋根の重さが関係なくなったわけではありません。むしろ、屋根の重さがより直接的に計算へ反映されるようになった、と理解するのが正確です。
実際の重量差も確認しておきます。屋根無料見積.comが公表している屋根材別の重量によれば、和瓦(銀いぶし)が約165kg/坪(約50kg/㎡)であるのに対し、ガルバリウム鋼板系(横暖ルーフ/スーパーガルテクト)は約16.5kg/坪(約5.0kg/㎡)、化粧スレート(コロニアルクァッド/グラッサ)は約68kg/坪(約20.6kg/㎡)です。屋根60㎡なら、和瓦の約3.0トンに対しガルバリウム鋼板は約0.3トン。差は約2.7トンにのぼります。
ただし、ここで断っておかなければならないことが2つあります。
- 屋根を軽くしただけで耐震等級が上がるわけではありません。壁量・壁の配置・接合部・基礎の状態がそろって初めて耐震性能が決まります。屋根の軽量化は有利に働く一要素にすぎません
- 既存住宅の葺き替えに壁量計算そのものが義務づけられるわけではありません。上記の令46条は主に新築・増改築時の規定です。とはいえ「重い屋根ほど多くの耐力壁が必要」という考え方は、既存住宅の耐震性を考えるうえでもそのまま参考になります
瓦のままでも耐風性は上げられます(令和4年1月の基準強化)
「瓦は危ない」という単純化にも注意が必要です。国土交通省の資料によれば、令和4年1月1日から瓦屋根の緊結方法の基準が強化され、それまで「軒・けらば(端部から2枚)とむね(1枚おき)」だった緊結対象が、原則としてすべての瓦に拡大されました。軒・けらばは3本の釘等で、むねはねじで緊結し、平部は瓦の形状と基準風速に応じた本数で留めます(出典:国土交通省「令和4年1月1日から瓦屋根の緊結方法に関する基準が変わります」)。
この基準は新築・増改築が対象で、既存住宅がただちに適合を求められるわけではありません。ただし、いま瓦で葺き替えるなら、この基準に沿った工法(いわゆるガイドライン工法・防災瓦)が現在の標準です。見積書に緊結方法の記載があるかを確認してください。
火災保険が使える場合と使えない場合
結論から言うと、葺き替え費用そのものに火災保険が下りることは、原則としてありません。火災保険が補償するのは風災・雹災・雪災などの自然災害によって突発的に生じた損害であり、経年劣化による屋根材の傷みは対象外だからです。
| 状況 | 火災保険の扱い | 補足 |
|---|---|---|
| 台風で棟板金が飛散し、その修理を行う | 対象になり得る(風災) | 風災補償が付帯している契約であること |
| 雹でスレートが割れ、その部分を補修する | 対象になり得る(雹災) | 被害日が特定できることが望ましい |
| 築25年でスレートが色あせ・反ってきたので葺き替える | 対象外 | 経年劣化は「偶然の事故」ではない |
| 被災を機に、ついでに屋根全体を葺き替える | 被災部分の原状回復までが上限 | グレードアップ分は自己負担が原則 |
| 前回工事の施工不良による雨漏り | 対象外 | 工事の保証やリフォーム瑕疵保険の領域 |
| 地震で瓦がずれた | 火災保険では対象外 | 地震保険の領域 |
気をつけたいのは、「保険を使えば実質0円で葺き替えられます」と勧誘してくる業者です。国民生活センターは、うその理由での保険金請求について「保険会社から保険金の返還請求や保険契約の解除をされたり、刑事罰(詐欺罪)に問われるおそれもあります」と注意を呼びかけています。申請者は業者ではなく契約者本人ですから、リスクを負うのも本人です。適用条件と申請手順は屋根修理と火災保険の適用条件で詳しく整理しています。
あわせて、点検を口実にした訪問販売のトラブルも増加傾向にあります。国民生活センターの点検商法に関するPIO-NET情報によると、点検商法の相談件数は2023年度の12,550件から2025年度は19,696件へ増加しています(2026年5月31日時点の集計で、数値は未確定)。「無料点検」で屋根に上がられ、その場で葺き替えを迫られた場合は、いったん保留にしてください。
よくある質問
Q. うちの屋根にアスベストが入っているか、自分で分かりますか?
見た目では判断できません。判断材料になるのは着工年と製品名です。環境省の資料では、平成18(2006)年9月1日以後に設置工事へ着工した建築物等は石綿含有建材が使用されていないと判断できるとされています。それ以前の建物は、設計図書や施工記録から製品を特定するか、分析調査を行うことになります。なお、住宅屋根用化粧スレートの石綿含有製品の製造等が禁止されたのは平成16(2004)年10月1日ですので、2004年以前の屋根は含有の可能性を前提に考えるのが安全です。
Q. 葺き替えの工期はどのくらいですか?
シズオカペイントプロは「足場設置から解体まで、おおむね10日から3週間前後が目安」としています。カバー工法(3〜7日程度)より長くなるのは、既存屋根の撤去と下地補修という工程が加わるためです。天候によっても変動します。既存屋根をめくった状態で雨が降ると被害が出ますので、梅雨期・台風期を避けたスケジュールを組んでもらってください。
Q. 見積書のどこを見れば、比較できますか?
まず「屋根面積 ○○㎡」の記載があるかを確認します。次に、撤去費・処分費・下地補修費・防水シート・屋根材本体が、それぞれ独立した項目として㎡数と単価つきで書かれているかを見ます。この5項目が「屋根工事 一式」にまとめられている見積書は、他社と比較できません。住まいるダイヤルが公開している見積書のセルフチェックの視点は、屋根工事にもそのまま使えます。
Q. アスベスト含有だと工期や近隣対応も変わりますか?
変わります。大気汚染防止法の作業基準では、石綿含有成形板等は「切断・破砕等することなく取り外す」ことが原則とされ、困難な場合は薬液等による湿潤化が求められます。割りながら剥がすほうが早いのですが、それは原則として認められません。また、事前調査結果と作業内容をA3サイズ(42.0cm×29.7cm)以上の掲示板で公衆の見やすい場所に掲示することも定められています。工期と手間が増えるぶん、費用にも反映されます。
Q. 屋根と外壁は同時にやったほうが得ですか?
足場は屋根工事でも外壁工事でも共通で必要です。別々に発注すれば足場代を2回払うことになります。前掲の内訳表のとおり足場は15万〜30万円ですから、同時施工にすればその1回分を節約できる可能性があります。ただし総額は当然大きくなりますので、資金計画と屋根・外壁それぞれの劣化度合いを見て判断してください。詳しくは外壁と屋根の同時施工で解説しています。
まとめ
屋根の葺き替え費用について、押さえておきたい点を整理します。
- 延床30坪の屋根面積は55〜64㎡が目安。「30坪=100㎡」を前提にした総額はそのまま当てはまらない
- ㎡単価は約15,000〜17,000円が目安。総額は屋根面積・屋根材・屋根形状で大きく動く
- 総額を左右するのは既存屋根材の撤去費と廃材処分費。既存屋根が何かで単価は2倍以上変わる
- 2004年10月より前の化粧スレートはアスベスト含有の可能性がある。撤去・処分費は5,000〜5,500円/㎡(無石綿は3,000〜3,500円/㎡)
- 令和3年4月からレベル3(成形板等)も大気汚染防止法の規制対象。事前調査・書面説明・掲示・作業基準が義務
- 令和4年4月から、改修工事は請負金額100万円以上(税込)で事前調査結果の電子報告が義務。葺き替えはほぼ該当する
- 令和5年10月から、建築物の事前調査は有資格者が行うことが義務
- 屋根の軽量化は地震時に建物が受ける力を小さくする方向に働く。ただし耐震性は壁量・配置・接合部・基礎の総合で決まる
- 火災保険は自然災害による損害が対象。経年劣化を理由とする葺き替えには使えない
葺き替えは、屋根リフォームのなかでもっとも費用がかかる工事です。それだけに、「今の屋根が何でできているか」を最初に確定させることが、見積比較の出発点になります。ここが曖昧なままだと、各社の金額は比べられません。現地調査を依頼するときは、屋根面積・既存屋根材の種類・アスベストの有無、この3点を書面で示してもらうところから始めてください。
なお、工事後の不具合に備える仕組みとして、国土交通大臣が指定した住宅瑕疵担保責任保険法人が引き受けるリフォーム瑕疵保険があります。加入するかどうかは業者側の判断になりますが、加入事業者かどうかを確認しておくのも、選定材料の一つになります。
見積もりを取るときに使えるサービス
ここから先は広告を含みます。自分で業者を探す時間が取れない場合は、一括見積もりサービスを使う方法もあります。ただしこれらのサービスは加盟店からの掲載料で運営されているため、紹介されるのは「その仕組みに参加している会社」に限られます。地元の優良な塗装店が含まれていないこともあるため、あくまで候補を集める手段の一つとして使ってください。この記事で挙げたチェック項目は、サービス経由で集めた見積書にもそのまま使えます。

